アナタの中のコドモの自分｜リアクション

アナタの中のコドモの自分

◆その手があったか！
　ぱーん。時は夕方、西陽の差している公園に、乾いた音が響いた。双子か姉妹か、よく似た二人の少女がバドミントンをしている。少女たちはポニーテールにした黒髪を靡かせ、これまたよく似た動きでラリーを続けていた。
　二人のうち、背の高い方――新田樹には、相対する少女のような妹がいるわけではない。兄はいるけれど。といって、友達というわけでもない。そもそもどういう存在なのかもわからない。そんな少女と、樹は遊んでいた。

　樹の自室に少女が現れたのは、突然のことだった。自分にそっくりな、あるはずもない、いるはずもない少女。戸締まりのされた部屋は密室。樹も驚き、暫し身動きが取れなかったが、すぐに神魂の影響と気付いて落ち着いた。

「まあ一日経てば消えるでしょ」
「何が？」

　よく似た少女が首を傾げる。樹はいやなんでもない、と言ってから部屋にあるラケットとシャトルを取って少女にも渡した。

「それより、遊ばない？」

　そうして公園で二人、バドミントンをすることになったのだ。

「あれ？　樹？」

　数分が経っただろうか、二人で休憩を取っていると、そこに樹の友人が通りかかる。フェミニンな小花柄のワンピースがよく似合っていた。そのスカートを翻して近付いてくる友人は柔らかな微笑を湛えている。たわわに実った胸部も印象的だ。樹と友人は二言三言言葉を交わすのだが、そうすると話題は自然と少女の方へ向いていく。

「ところで、この子誰？　樹に妹っていたっけ？」
「この子は……」

　樹は少し間を置いて、その場に相応しい理由を考えた。

「親戚の子で、いま家で預かってるんだ」
「そうなんだ！　よく似てるねぇ」

　友人は大して疑問に思うこともなく、樹の言うままに受け止めた。樹は胸を撫で下ろすが、友人の騙されやすさを少々心配に思った。ふと隣に視線をやると、樹そっくりの少女がまるで嘗め回すかのように友人のワンピースを見ていることに気付いた。気に入ったのだろうか？　樹がそう思って見ていると、少女はおもむろに友人の服を掴んだ。

「この服ちょうだい！」
「えっ、ええっ！？」

　頼まれた友人も、見ていた樹も目を丸くした。友人は言葉に詰まり、唸りながらなんとか喋る。

「えっと、えっと、こういう服、どこでも売ってるよぉ。お母さんに買って貰おうねえ」
「この服が良い！」
「ダメ。我慢しなさい」

　樹が諫めると、少女はなんと駄々をこね始めた。友人も樹も応じないのにしびれを切らして、少女は樹を見て言う。

「あの服取って！」
「そんなＵＦＯキャッチャーの景品みたいに言われても……」

　困惑する樹だが、やろうと思えば出来ないことはない。しかし、そんなことをしてお巡りさんにキャッチされてしまえばオシマイである。明日の朝刊に『特集！　服を毟り取る女子中学生』という記事が載ることを想像して、樹は身震いする。

「一生外に出られないだろうな」

　そんな樹の思いも知らずに、少女は駄々をこね続けている。しまいには樹が怒鳴りつけるが、それに驚いた少女は泣き出してしまった。友人はおろおろしながらもその様子を不憫に思い、その胸に少女を抱き寄せる。

「服はあげられないけど、こうするくらいなら出来るからね、よしよし……」

　少女は友人の胸に顔を埋めるばかりでなく、さりげなくそのたわわな胸を揉み始めた。
　――これが目的？　だとしたら、とんでもない策士ね
　調子の良い少女の様子に樹は苦い顔をするものの、
　――私もこの手口使おう！
　両性愛のケのある故に、そう決意するのだった。