アナタの中のコドモの自分｜リアクション

アナタの中のコドモの自分

◆公園で遊ぼう！（１）
「あそぶのです！」

　椿美咲紀と八神修が並んで歩いていると、突然黒髪の少女と大人しそうな少年が駆けてきた。美咲紀と修によく似た子供たちは、二人の前でそわそわと返事を待っている。美咲紀と修は顔を見合わせて頷き合うと、修が子供たちと目線を合わせて言った。

「君は誰だ？」

　修のこの言葉は、二人のうちより物分かりが早そうな方――即ち、修にそっくりな方に向けられている。ちび修とも言うべきこの子供は何を問われたのかはっきりと理解しているようで、淀みなく答えた。

「どうでしょうね。僕でもよくわかっていません」
「いいからあそぶのですー！」
「でも、この子のように遊んでみたいと願わないこともないですね。以前は身体が弱かったから、普通の子供のように遊ぶことが出来なかったので」

　修を警戒しているのか、どこか回りくどい言い回しだ。しかし、そこから得られる情報だけでも推理をすることはできる。それから修とちび修は幾つかのやり取りを交わした。ちび修の答えと、ちび美咲紀の言葉を合わせて状況を把握した修は、振り返って美咲紀に対して説明する。状況を未だ把握できていない美咲紀は、修の話に耳を傾けた。

「わかった。彼らは俺達の一部だ」
「そーなのですか？」
「おそらく、忘れていた願望や、子供の頃出来なかったことに対する未練が形になったものだろう」

　修の推理が当たっているかどうか、それはこの場ではわからないことであるが、納得のいく推理であるのは確かだ。叶えられなかったあの頃の願いを叶えてやろう！　と言って話を締め、修は美咲紀の様子を伺った。美咲紀は話を理解しているように見えるが、なんだかそれとは違った理由で落ち着かない様子だった。暫し経って、ちび美咲紀の元気な姿に後押しされたのかぽろりぽろりと言葉を零していく。

「そーなのです。遊びたいのです。公園のブランコとか、この年になってあそぶとか出来ないじゃないですか」
「と、いうと？」
「いや、出来なくはないけど、日中１人でそんな事していたらご近所さんに心配かけてしまうではないですか……」

　たしかに、女子高校生が一人公園で遊んでいたら、想像力豊かな隣人は様々な想像を巡らせてしまうことだろう。学校で何かがあったのではないかとか、いじめを受けているのではないか、だとか。それもあって、美咲紀はなかなか行動に踏み出せないでいた。しかし修はふっ、と笑って美咲紀の肩を叩いた。

「遊べばいいじゃないか。丁度そこに公園もあることだし」
「そーなのです！　あそぶですー！」
「そ、そーですね！　遊びましょう！　遊びます！」

　それに元気づけられた美咲紀は、子供たちを連れて公園へ入った。軽く見まわしただけでも、遊ぶには充分な設備が整っていることがわかる。

「よし、子供達、一緒に遊ぶですよ！」

　お姉さん然としている美咲紀が一番はしゃいでいるのは、誰の目から見ても明らかだった。修はベンチに座って、鞄から参考書を取り出す。求められれば参加したり、手助けはするが、基本は見守る役割のつもりだ。
　修は美咲紀とちび美咲紀の方へ視線を集中させた。ちび修を心配していないわけではないが、あちらは６歳児の外見ながら相応の分別は付いているように思える。修はひとまず彼自身にその成り行きを任せても問題ないと考えていた。
　ちび美咲紀と美咲紀はブランコに乗り、立ち漕ぎで高く高く。ある点まで達すると、ブランコから跳躍する。幅跳びの要領で着地した美咲紀は、どやっ！　とどこか勝ち誇ったような顔で立ち上がった。ちび美咲紀は暫し衝撃に耐え、こちらもどやっ！
　姉妹のような二人を、修は微笑ましく見守っていた。

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