アナタの中のコドモの自分｜リアクション

アナタの中のコドモの自分

◆心の休息
　病院での日々は一秒も休む間がない。やっと訪れた週末、深倉理紗子は自宅のベッドの上で休息を取っていた。多忙に慣れた身体は浅い眠りしか繰り返さず、空が白み始めた頃にようやく深い眠りに落ちる。しかし、理紗子にとっては残念なことに安穏とした休息は突然打ち切られた。

　何者かが理紗子の身体を揺さぶっている。背に確かに感じる手の感覚。この部屋には、理紗子の他に誰も居ないはずだった。
　――なんなのよ……こっちは疲れ果ててとにかく寝たいのに……。
　突如現れた侵入者への恐怖よりも先に、睡眠を邪魔されたことへの怒りが湧く。理紗子は掛け布団を被ってやり過ごそうとするが、侵入者は理紗子の行動を見て考えを変えたようだ。揺さぶる手を離した次は、部屋にある物をガンガンと鳴らす。何が何でも理紗子を起こす気のようだった。音が響いて痛む頭に理紗子はとうとう観念して身を起こす。

「あ……あなた、誰なの？」

　そこにいたのは、子供だった。理紗子の子供の頃そのものの子供。理紗子の頭は混乱して、状況が飲み込めなかった。なんで子供の頃の自分がこんなところにいるのか？答えをくれる者はいなかった。重く身体に伸し掛かっていた眠気が一瞬で吹き飛ぶ。

「お外に出ようよ」

　子供の理紗子はドアを指して理紗子の手を引っ張った。

「遊ぼう」

　子供は呆気にとられて動けない理紗子に怒りながら更にその手を引っ張る。鬱屈を貯めたような声に理紗子も遊んでやろうと思うも、どこに遊びに行けばいいか、わからない。困惑したまま、理紗子は子供に導かれるように着替え外に出た。

　揺れるブランコに乗る子供の理紗子が笑っている。その様を理紗子は眺めていた。公園にはバドミントンをする姉妹や、砂場で遊ぶ兄弟などで賑わっていて、誰も彼も楽しそうだった。
　子供の理紗子の隣でブランコに乗る女子高校生に手を振られて、理紗子も手を振り返す。そうしながら、理紗子はここに来るまでのことを思い返していた。

　無計画なまま街に出た理紗子は、どこに向かうでもなく子供の理紗子を連れてただ道を歩いた。子供の理紗子はそれだけで楽しそうににこにこと笑っている。それを見た理紗子も楽しくなって、ふとなんとはなしに子供の頃を思い出した。
　子供の頃の理紗子は、事あるごとに優秀な兄と姉に比較されていた。日常の何気ない行動すら兄や姉の名を出してダメ出しされ、その度に傷ついていた。だから今、こうして誰からも何も言われることなく、自由に在れる時間はありがたいと、そう思える。

　ブランコを降りた子供の理紗子が駆け寄ってきて、理紗子は我に帰った。

「今度は一緒に乗ろう！」

　子供の理紗子がブランコを指差して待っている。理紗子は立ち上がって後方に乗った。前方に座る子供の理紗子が漕げば漕ぐほど高く上がるブランコ。二人乗りのアンバランスさも、この場ではスパイスだ。
　子供の頃はどこまでも高く、そのうち飛んでしまうのではとも思っていたな、と懐かしく思って理紗子の口元は緩んだ。

「楽しいねぇ！」
「楽しいわねえ……」

　ブランコを降りても遊びは終わらない。子供の理紗子はまた街に出て、興味のあるものへ屈託無く向かっていく。理紗子はそのまま一日中、子供の理紗子と遊びまわった。

　星空瞬く頃、理紗子はへとへとになって自宅へ戻る。子供の理紗子はおうちに帰るといって、そのままどこかへ行ってしまったのだ。
　眠り続けている時に比べて、身体はすこしも休まらなかったけど……
　――こんな休日もいいものね
　そう思う理紗子の心は、すっかり軽くなっていた。

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