ザ・ホラーハウスショー！｜リアクション

ザ・ホラーハウスショー！

■ホラーハウスＢルート・ランニング
　人生なべて面倒ごとばかり。
　いつもの暮らしにいつもの仕事。休日はといえば家族サービスで遊園地に連れて行かされる始末である。
　当の家族は絶叫マシンに並ぶのに忙しいらしく、自分はこの賑やかな空間でぼんやりと時を過ごすしかない。
　大人ってこんな地獄みたいなものだったっけと、男は肉球ハイランドを歩いていた。
　そんな時、ふと見つけたのが『本日限定オープン』と書かれたお化け屋敷のポップであった。
　他にやることも無い。入ってみるか。
　そう、不気味な建物へと足を踏み入れた。

　雰囲気は明治初期に建てられたような古い日本家屋だ。
　西洋の雰囲気がありながら、全体的にはほぼ和室。靴を脱いであがり、座布団に座るところからアトラクションは始まった。
　ブラウン管テレビが突然つき、ノイズがはれて映像が流れ始める。
　そこには大富豪の男（八神修）が悲劇の運命の中で狂い館に訪れる者を呪い殺していくというストーリーである。しかし愛する娘の指輪を渡せばきっと呪いは解かれるだろう、と。
　ムービーの終わりと同時に、ゆらりと現われる案内人の女（椿美咲紀）。
　彼女が話すには、館の奥に眠る美しい人形がその指輪をはめているのだという。それをとってくれば、この館から脱出することができるとも。
　男は薄いスリッパと明かりの弱いランタンを持たされ、廊下へと案内された。
　なるほどそういう趣旨か。
　男はおつかいにでも行かされる気分で、重い引き戸を開いた。
　途端、ふっと冷たい風が吹いた。
　どこかからすすり泣くような声がして、薄暗い廊下が長く長く伸びている。
　何事も無い、しかし風と音だけがある廊下。暫く歩いて行くと、廊下の突き当たりを何かがよぎったように見えた。
　直後、背後で何かが通り過ぎるような風。
　否、感触。
　慌てて振り向くも、そこには何も無い。
　男の中に不安がわき始めた。ただ廊下を進むだけ。そのことが酷く不安なのだ。
　早く終わらせなくては。そんな気持ちから足取りが速くなり、突き当たりに何かあるのではないかという気持ちから腰が引ける。
　結果おろおろとしたまま廊下を進むと、足下が生暖かいものが通り抜けていった。
　確かな感触にワッと声をあげ、廊下の奥へと走る。
　そして突き当たり。
　何かが通り過ぎていった先を見ると、そこには。
「……」
　番傘をさした美しい女性（ナスティ・クローヴァ）が立っていた。
　まるで妖怪画にみる雪女である。見るだけで冷え込むような肌色と髪の色。しかし見とれてしまうほどの美しさに男はつい立ちすくんだ。立ちすくんで、ぶるりと震えた。
　冷え込むようななんてとんでもない。実際部屋の温度が急激に下がっているのだ。
　見れば粉雪がちらちらと降り、フローリングの床は氷のように冷たくなっていた。
　尋常では無い事態に慌てた所で、彼の背後に水が浴びせられた。
　ぎゃあと声をあげて飛び退く男。すると今度は反対側からぺたりと奇妙な感触が後頭部にあたった。
　暗闇、冷気、そして謎の感触という流れに混乱した男は訳も分からず走り出し、突き当たりの部屋へと飛び込んだ。
　そこには、人形があった。それもいくつもの人形だ。
　造形も様々な、色々の表情をした人形。
　男はそこで改めて、人形が目的の指輪をしているという事実を思い出した。
　人形に近づいてみる。
　暗さと揺らめく光のせいでいまにも動き出しそうに見える。
　ひとつ、またひとつと手元を確かめていった。
　そんな中で、一番奥、緑色のルージュをひいた印象的な人形があった。
　指輪は、その人形がつけていた。ムービーの中で見た愛しい女性。エメラルドルージュの女（三宅葉月）である。
　人形から指輪を抜き取り、ひとり納得する男。
　これが女の代わりなのだなと握りしめたその時。
「かえして」
　背後で声がした。
　ふりかえる。
　エメラルドルージュをひいた女が、顔に恐ろしい傷を作った女が、ぼろぼろになった手で掴みかかってくるのだ。
　悲鳴をあげて逃げ惑う男。
　開いた扉の先へ走る。扉がしまり安全が確保されるが、すぐさま何かが倒れる音がした。
　慌てて振り向けばそこには空っぽの棺桶。
　いやまさか。そんな予感で首を振り、しかし目的のものは手に入れたのだからと廊下を進もう……とした矢先、館の主人に似た死体人形が首を吊るようにぶら下がり、『かえせ！』と叫び始めた。
　館で呪い殺された人々と思しき死体（新田樹）が起き上がり男へと駆け寄ってくる。
　悲鳴を上げ、とにかく走り、そしてうっすらと開いた扉の先へと転がり込んだ。
「これは、あの子の指輪。ありがとう……」
　どこからか声がして、そして部屋はぱっと明るくなった。

　お化け屋敷を出た男は、なぜだか気持ちが晴れやかだった。
　家族サービスも悪くない。もっとやってやろうじゃないか。
　そんな気分になりながら、やがてくる家族を待った。

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