NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・前編｜リアクション

NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・前編

■アラタとゲンゾウ
　玖珂新。
　見るからに不良みたいな彼ではあるが、本人に言わせればフツーの高校生である。
　ある転機を境に地元のチームを解散し、寝子島へと移り住んできたのだ。
　これからはまっとうに生きようと心に誓ったはいいものの、似たような不良高校生が弟分になってしまってまるでまっとうじゃあなくなった。
　そんな、高校一年生である。
　そして今日もまた、まっとうじゃない事件が舞い込んできた。
「なんだこの『ササヤキ』は、ユメユメだなんだってワケわかんねえ」
　シガレットラムネをくわえて頭をがりがりとやっていると。
「アニキ！　アニキー！　大変ですぜ、隣の組のセタって野郎が自分のバイクぶっ壊そうとしてるんでさあ！　命より大事だつってたのに、あいつ立ち直れませんぜ！」
　例の弟分がどたどたと駆け寄ってきた。
　魚塚源三。
　ケンカ生まれのケンカ育ち。ケンカ好きは大体知り合い。
　というラップ調の紹介はさておいて、腕っ節自慢で地元で猛威を振るっていたところ恨みを買った連中のワナにはめられ、持ち前の気質で助けに入ってきた新に惚れ込み以降アニキと慕っている。解説終わり。
「アニキじゃねえ！　大体同い年だろうが！」
「でもアニキの方が一月生まれが早いですぜ。まあ、兄貴が十歳年下だったとしても……アニキはアニキですがね！」
　キリッと決め顔でいう源三に、新は盛大なため息をついた。
　ただでさえ不良と間違われるのに、これではますます不良である。
　一方源三は人の話を聞かないタイプのようで。
「それでですねアニキ、隣の組のセタって野郎が……」
「その話は聞いたよ。ユメユメにとりつかれてるってハナシだろ」
「そうです。おっ、てことはアニキも同じササヤキを？　さっすがアニキ、話が早ぇや！」
　そう言って、源三は走り出した。
「おい待て。どこに行く」
「え？　助けにいくんでしょう？　ぶん殴ってとめてやりましょうや」
　当然そうしますよねというきょとんとした顔を受けて、新はシガレットラムネを噛み砕いた。
「あー、わかってるよ！　行くぞゲン！」
「そうこなくっちゃあ！」

　頭から黒い鬼のような角を生やした少年が、ぴかぴかのバイクをハンマーで破壊しようとしていた。
　それもでっかいスレッジハンマー。影が凝固したようなヘンテコな見た目をしていたが、重さと堅さは見ただけでわかった。
「あのバイク、死んだ親父から引き継いだモンらしいんでさあ。いつかはあれを乗り回すんだって、免許取れるまで毎日磨いてるってハナシですぜ」
「お前詳しいな」
「あいつ、なかなかいいケンカするんでさあ」
「ああ、そういう……」
　ケンカ好きは集まりやすい。同じ趣味を持つ者同士ツルむこともあるそうだ。
　まるで不良仲間のコミュニティに引き込まれたようでビミョーな気持ちだったが、壊れたバイクを前に泣き崩れる少年の姿を想像して新は首を振った。
「っし！　細かい話は後だ。とにかくぶん殴って止めんぞ！」
「おうアニキ！　きりこみますぜ！　俺が相手になるぜオラァ！」
　ハンマーを持ってバイクに近づく少年に、源三は腰へのタックルで攻め込んだ。
　露骨な邪魔に反応した少年は、ハンマーを源三へと叩き込む。
　常人ならワンパンで沈むような衝撃の筈だが、源三は口の端から血を流しただけですぐに起き上がってみせた。
「あいっかわらずタフだなあいつ。どういう身体の構造してやがんだ」
　新は拳を握りしめ、少年に向けて飛び出した。
「悪いが、ワンパンできめんぞ！」
　ダッシュジャンプからの全力パンチ。
　全身の重量がのったパンチが少年の頬にめり込み、強引に殴り倒す。
「さすがアニキ！」
「言ってる場合か、押さえ込め！」
「押忍！」
　源三は新に言われるまま相手にのしかかり、新は関節技をかけて少年を拘束した。
「しっかりしやがれ！　なにがどうなってんのか知らねえが、テメェの大事なもんがぶっ壊れちまうんだぞ！」
　少年は暫く暴れて抵抗したが、やがてぱったりと動きを止めた。
　そして……。

このページにイラストを設定する