NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・前編｜リアクション

NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・前編

■生きてるだけのことに、意味があるだなんて
　長い時間をかけて自殺しているような女。
　朝鳥さゆるを表わすにたる、一節の表現である。
　彼女は今日もまた自傷行為のような時間を過ごしていた。
　肉体を傷付けることはせず、人生を傷付けて回る。日常を壊して回る。
　そこにどんな意味があったのか、その行為が何をゴールとしていたのか、それすら忘れたような、どうしようもない時間である。
　今日もそうだし、明日もそうなるだろう。
　そんな彼女の脳裏に、ササヤキはやってきた。

　扉を開き、沢山の服がかかった部屋へと入る女性。
　高級そうな服の中にただひとつ、美しく飾り立てられたウェディングドレスがあった。
　女性の手には黒い影のようなナイフが握られている。
　ナイフが、ショーケースの上からドレスに深く突き立てられる。
　上から下に引き裂かれていく。
　踏みつけられていく。
　まるで、己の肉体を傷付けることはせず、人生を傷付けているかのような行為だった。
　……そんなビジョンが、いくつかの説明と一緒に流れ込んできたのだ。

　無視しても良かったのだろう。
　しかしさゆるは立ち上がり、現場へと歩き出した。
　無視したところで、とりたててやりたいこともやらねばならないこともない。
　他人のために献身的な行為をしたくなったわけではない。
　むしろそんなことはしたくない。
　他の誰かにやらせればいいとさえ思った。
　世には善人があふれているのだろうから。
　放って置いてくれとさえ。
　しかし。
「もしかしたら」
　あの歪んだ自傷行為を邪魔すれば、自分が他者の凶刃にかかって無残に死んでしまうのでは無いかという……希望を抱いたがゆえである。

　玄関の鍵は開いていた。
　廊下を突き進み、階段を上り、開きっぱなしのドアの前に立つ。
　影のナイフを手にした女が、こちらを振り返った。
　その顔つきを見たとき。
　さゆるはこの場所に来たもう一つの理由に思い当たった。
　なんだ。
　このユメユメとやら。
　まるで私そっくりじゃないか。
「――！」
「――！」
　同時に動いていた。
　相手はナイフを握り、心臓をひと突きにせんばかりに突撃をかけてくる。
　さゆるは露骨なほどに向けられた殺意にろっこん能力がはたらき、相手をあまりにもあっさりと組み伏せ、後頭部に肘を叩き込んでいた。
　あまりにもあっさりと。
「……」
　また死ねなかった。
　そして相手は今この瞬間、自らの人生を傷付け損ねたのだ。
　きっとこれでよかったのだろう。
　自分には関係の無いことだけれど。

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