せんせいといっしょ：ウォルター先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：ウォルター先生編

　穏やかな午後は春の空気をふんだんに孕んでいた。冬から移り穏やかな空気の流れる中、テラス席には暖かな空気が感じられた。
　テラスの固い背凭れに背中を預けウォルター・Bは珈琲を見下ろした。
　涼やかな目元は僅かに細められ、珈琲を手にした後は小説に向けられている。英語の――それも、原書の小説なのだろう。
　人の行き交う食堂の中は割と席が埋まっている。室内の座席を優先しあまりテラス席を選ぶ学生も少ないのだろうか、ウォルター先生の席の周囲は空席が見受けられた。

（「新入生に席を譲ってあげたいし……テラスでいいかしら」）
　陽当たりのいい場所でのんびりと昼食を、と弁当箱を手に周囲を見回していた丹羽紅葉はウォルター先生の姿に気づきぱぁ、と表情を明るくした。
　普段英語の授業で世話になっており華道部の顧問でもある教諭だ。白い魔弾の使い手であることもあり、その正確な弾道に恐怖する生徒もいるとかいないとか……そう言った話も聞くが紅葉にとっては特に怖いと感じたことはない。
　異国の風貌は整っているが、その外見に緊張することもなく、大人である事や教諭であることもあり博識さから紅葉にとっては好ましい相手であった。
「こんにちは、ウォルター先生」
「やぁ、丹羽。いい天気だねぇ」
　ひらりと手を振ったウォルター先生に紅葉は「ご一緒しても良いですか？」と柔らかに笑みを溢す。
　長身でありながら痩躯であるイメージを抱かせる彼に食事はしているのかしら、と心配になってしまうのもどこか幼い口調で話すからだろうか。
「どうぞどうぞ」と笑った彼に紅葉の表情は明るくなり、椅子を引いてゆっくりと腰掛ける。
「手作り弁当？　いいねぇ、実に女の子らしいと思うなぁ」
　気分屋で正直者。思ったことを口に出すのは異国の青年らしいとも言える。猫のように目を細めたウォルター先生に紅葉の目元は僅かに赤らみ「ありがとうございます」と華やぐ笑顔を見せる。
「先生、これどうぞ」
　お弁当を入れていたランチバックから取り出したのはリボンをつけて軽いラッピングをしていたクッキー。
「クッキー？」
　僅かに首を傾げ、流暢な発音で問うたウォルター先生に紅葉はこくりと頷いた。
「華道部に新入生が来たら渡そうと思って作って来たんですけど、作りすぎちゃって」
　丸い小振りなクッキーにはレモングレーズを付けてエディブルフラワーを飾っている。
　甘すぎず、食べやすいサイズの其れは普段からブラックコーヒーを愛飲しているウォルター先生にもぴったりな一品だ。
「ありがとう！　折角だから、今食べさせて貰おうかなぁ」
　へらりと笑った彼に紅葉は小さく頷く。小説は気付けば栞を挟んで閉じられていて。青い瞳は楽し気に紅葉を見ている。
「さ、食事をするんだよねぇ？　僕はクッキーを食べるから、君は遠慮なくお昼を食べてねぇ」
「はい。先生、活花の方も時間ある時に見に来てくださいね」

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