せんせいといっしょ：ウォルター先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：ウォルター先生編

　２年生になって初めての英語の授業。昼休み前の眠たい時間に羽生碧南は僅かな風を感じていた。
　春の穏やかな陽気は眠気を誘う――が、その眠気を取り払った風は右斜め後ろに居た少年が「っっ―――！」と叫びをあげたからだ。
　噂に名高いウォルター先生の白い魔弾。直撃を避ける事が出来なかった彼は眠っていたのだろう……。
（「………す、すごい……」）
　ごくり、と息を飲む碧南。その後も内職していた女子が魔弾の犠牲になったのだった。
　標的をロックオンし、そのまま攻撃に移る戸惑いの無さは神業だ。目標までの距離や位置の目測も、投擲のコントロールの正確さも魔弾の使い手と呼ぶに相応しい。
　そんなことを思いながら訪れたのは学食。広めのテラス席で語らうウォルター先生を見つけ、碧南は「先生だ」と瞳を丸くした。
　周囲の座席は埋まりつつあり、自然に其方へ向かう事になったのは偶然だ。
「やぁ、君は……羽生であってたかなぁ？」
「はい、先生。先程はありがとうございました」
　授業の礼を告げれば彼はへらりと笑って手を振る。珈琲とクッキーをお供にした彼は食事を終えているのだろう。
「先生、よくここで食べるんですか？」
「そうだねぇ、自分で食事を作る……なんてこともないしなぁ」
　君は、と問い掛けられたそれに気分次第ですね、と碧南は返した。購買でパンを買うだとか、学食で食べるだとか、屋上や中庭なんかも食事のスポットとしても人気が高いと告げた彼女にウォルター先生は頷いた。
　朝練と放課後の部活も見越し、日替わり定食Aを口にしながら碧南は先程の事を思い出す。
「先生、凄いですねー、あの魔弾の投てきテクニック！」
　是非教えて欲しいと瞳を輝かす彼女の声を耳にして、別のテラス席で食事をしていた椿美咲紀が瞳を輝かせた。
「その話、私も聞きたいのです！」
「ああ、よければご一緒してもいいですか？」
　供に食事をしていた八神修も大きく頷きトレイを手に座席へと腰掛ける。
「センセ、お昼はもう食べ終わっちゃいました？　ご一緒しましょうよぉ」
「クッキーを食べているだけだけど、それでもいいならねぇ」
　へら、と笑ったウォルター先生に美咲紀は大きく頷き笑みを溢す。
　彼女の手元にはササミフライ定食。何にしたって身体が資本だという彼女は体力増強にはしっかりした食事と適度な運動だと力強く告げる。
　周囲に学生がいることもあって相席の判断を下した修はウォルター先生が学食に居るのは意外だと瞬いた。
　カレーを口にする彼に「ここのカレーって食べた事ないんだけどおいしい？」とウォルター先生は首を傾ぐ。
「美味しいですね。懐かしい味なんで割と頼んでます。一寸子供っぽいかも……ですけどね。
　先生はいつも昼食はどうされてるのです？」
「僕はねぇ、色々かなぁ。此処で適当に頼むこともあるけど……気分次第って感じかなぁ」
　にんまりと笑ったウォルター先生に修と美咲紀は頷き碧南の疑問――『本題』へ入ろうと彼へと向き直った。

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