５０００兆円貰った！｜リアクション

５０００兆円貰った！

◆1370深海旅行
　５０００兆円。
　受け取った国家予算レベルの資金を前にして、八神修は思案していた。
　これまでの経験則から、１日も経てば元の世界に帰るだろうということ、そして買ったものは持ち帰れないだろうということはわかっている。
　ならば物ではなく経験――とそこまで考えついたはいいものの、何を経験するかが肝腎である。
　高校生の視野で考えるような大抵のことは自分の持っている資産で出来てしまうから、普段できないことをしようといっても、なかなか思いつかないものだ。外国や宇宙に行こうと思っても、１日という短い時間では厳しいだろう。却下だ。国内ですることといっても、特に会いたい有名人があるわけでも、開いてほしいコンサートがあるわけでもない。離島巡りなども、しようと思えばいつでもできる。却下。
　……と、そこまで考えたところで修の頭に一つ名案が浮かんだ。海。
　海ならばと、早速関係機関へ繋いだ。

　借り切った探査艇から見える海は、地上から見る海とは大違いだ。潜れば潜るほど変わる青色を、修は心を躍らせながら眺めていた。
　太陽の光届かぬ深海。そこが本日の旅行先だ。

「おおっ」

　普段は図鑑、よくて博物館や水族館の中でしか見ることができないような深海の生物の生き生きとした姿を見て、思わず声を上げる修。
　淡く発光する深海魚は表層の魚たちとはまた違った魅力がある。その美しい、あるいは雄大な姿を修は残らず写真に収めた。
　カメラを動かしていると、ふと修の視界に不思議な影が映る。不審に思い近付いてみると、そこには船の残骸が見える。周囲を巡り全貌を見てみると、いつの時代の物かはわからないが、沈没した戦艦であることがわかった。
　修はこの戦艦の嘗ての姿に思いを馳せた。そして、これも写真に残そうとカメラを動かす。断面から伺えるその内部も貴重だ。

「大陸棚の底にオーパーツも有るかもな」

　海底火山が沸々とマグマを噴き上げるのを見ながらそう思い立ち、操縦桿を握った。
　オーパーツ。大陸棚の底から幾つかそれらしいものを発見して、回収する。本物かどうかはまだわからないけれど、陸に上がったら、じっくり眺めよう。
　そう考えながら、次に修が向かったのは日本海溝だ。さらに言えばその深部、超深海帯。６５００メートルの潜水を可能とするこの探査艇は超然と潜航を続けている。修は海溝の壁を眺めながら、目の前に現れるだろう景色に胸を躍らせていた。

　そして修は、海溝の深部へ到達する――

　深海探検を終え、陸に上がった修は深呼吸。大きく伸びをして、自宅へと帰りつく。
　机に広げるのはたくさんの写真と、回収した品物。修はその一つ一つを心に刻み付けるよう、じっくりと眺めている。

　――今日の日を、俺は忘れないだろう

　そう思いながら、修は未だ鮮明な記憶を振り返った。

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