【星幽塔】今日、どう過ごす？｜リアクション

【星幽塔】今日、どう過ごす？

　やあ、いらっしゃい。『喫茶　迷い猫』にようこそ。
　え？　この扉の【怪しい料理研究中】の看板？　気にしないでくれ。文字通りだ。
　いやいや、怯える必要はないよ。この店は近所の宿屋と提携してるし、クエストボードもあったりと商売繁盛優良店だ。安心したまえ。

　まあ席に座って。このアイスミントティーはサービスだから、まずはこれを飲んで落ち着いて欲しい。どうしてミントティーかって？　ふ、ふふふ。
　何の料理の研究をしてるか？　うん、この世界の色んなものを料理に使えないか研究してるんだ。この世界は各階層に様々な素材があるだろう？　依頼なんかで一緒に持ち帰ってくれた素材を買い取って料理したりしている。そう、買い取るんだ。私、戦闘は柄ではないのでね。

　今はこれ。『魅惑の粉』だ。そのまま炒めてみたり水に溶かしてみたり日輪の花と混ぜて煮詰めてみたり。ポーションだと効果が高まるんだが、『魅惑の粉』はどうかな？　湯気に粉の成分が乗ってるかもしれない。
　え？　私が霞がかかった美女に見えるって？　だから万が一のために君にミントティーを渡したのだよ。美しく見えるのなら元からだ。
　ああ、この煮詰めている鍋かい？　立派だろう。うん、ヒヒイロカネなんだ。火加減調節が便利なので作ってもらった。……「もったいない」ってそんなに目玉をひんむかなくてもいいじゃないか。

　―――よしできた。薬が。「料理じゃないのかよ」ってツッコミはしなくてよろしい。君は少し細かいな。
　さ、じゃあデザートだ。マッスルバニラで作ったアイスに混ぜ込んでみよう。これを私が食べて、君が私に惚れれば薬は成功―――ってもういないのか。ああ、扉を勢いよく開けすぎたせいでギシギシいってるじゃないか。もう少し落ち着いて出て行けばいいものを。お代を貰い損ねた……いや、サービスの品を出しただけでまだ何もしてなかったな。
　それにしてもアイスがもったいないじゃないか。しょうがない、次の実験台が来るまで冷やしておこう。シュガーメロンを沢山添えれば……恐ろしいメニューになってしまうな。成功したら有閑マダム相手に売り込むか。
　お、誰かじっけ……お客が来たようだぞ。

　扉が開く。旅鴉月詠がカウンターから静かに微笑んだ。
「やあ、いらっしゃい。『喫茶　迷い猫』にようこそ」