【星幽塔】今日、どう過ごす？｜リアクション

【星幽塔】今日、どう過ごす？

「へぇ……俺が留守の間にそんな事があったのか」
　サジタリオの空が紫色に染まり、１番星が瞬き始める頃。八神修が帰宅したので『ねこよろず』の面々は夕食をとっていた。
　食卓に上るのは椿美咲紀お手製の『星幽塔風ポトフ』。朝市で仕入れた材料を接客の合間にせっせと煮込んだものだ。美咲紀曰く、
「地産地消。寝子島で作るのとは少し風味が違うけど、この世界の材料で料理すれば美味しいのです！」
　オムレツやサラダは遠野まほろも手伝った。恵御納夏朝お手製のクッキーも並んでいる。バゲット風のパンはアニさんオトさんに買ってきてもらい、コロッケのような揚げ物は修がお土産にと買ってきてくれた物だ。みんなで囲む美味しく楽しい食卓。夏朝が話してくれた昼の出来事に修の目が真剣なものになった。
「それ、うちも契約できないかな。宅配出来る店っていうのはまだこの世界に少ないんじゃないか……？」
　ぶつぶつ考え始めた修にまほろが笑いながらのんびりと言った。
「八神君。ご飯、冷めちゃうよ……？」
「あ、そうだな」
　まほろの気遣いに修は慌ててまた手を動かし始める。つい経営に熱中してしまう修の姿を微笑ましく思いながら、夏朝が修に尋ねた。
「八神君はお昼どうだったの？」
　夏朝の言葉にポトフを食べていた修が顔を上げた。
「ああ。俺は階層間の商品流通でちょっと動いていたんだ」
　修の話はこうだった。
　第三階層で『ねこよろず』は支店と畑を持っている。第三階層の野菜は第一階層ではまだ珍しい物が多いだろう。逆に、第一階層には職人も多く、優れた製造技術と材料がある。武具や農機具調理器具等はきっと第三階層で重宝されるはずだ。
「―――けれど、階層間の流通は良く分からなくて色々聞いて回ってたんだよ」
「それで、どうだったんですか？！」
　何だか壮大な話に美咲紀が瞳を輝かせながら訊いてくる。修は人差し指と親指でＯＫサインを作り、ウインクした。
「どんどん階層が解放されてきているだろ？　手の早い商人達はもう独自に流通を始めているらしい。俺達も後れをとらないように早々に支度を調えないと」
「何だか、忙しくなりそうだね」
　少し驚きながら言うまほろに、修は悪戯っぽく言った。
「遠野のぬいぐるみも星幽塔で一大ブームを巻き起こすかもしれないぞ」
「え……ええ？」
　まほろは眠そうな目を少し見開きぱちくり。そんな彼女に修は微笑むと、皆に向き直った。
「俺は塔の平和を流通で後押ししたいんだ。階層同士がもっと交流を深め、豊かになればいい」
　―――そう、シルクロードで文明が発展を遂げたように。塔の中心……移動のあの階段を『星の道』と考えるなら、星幽塔で重要な役割を果たすはずだ。きっとゆくゆくは物流の動脈になる。
（商社を起こした祖父の血かな）
　修は人知れず微笑んだ。寝子島では選ばないその道を、星幽塔ではなぜか辿ってしまっている。その抗えない運命のようなものに、修は不思議な感慨を覚えるのだった。

「そういう事ならもっと体力をつけなきゃなのです！　さあさあ、皆さんいっぱい食べて下さい。おかわりもあるのですよ～！」
　修の話に気合いが入った美咲紀が、元気よく言う。勿論皆が異論を唱えるはずはない。テーブルを囲む全員が空になった皿を掲げた。
「「「「「おかわり！」」」」」
「ひゃ～、任せて下さいなのです！」
　慌てる美咲紀に皆がどっと笑う。そんな光景に夏朝は思うのだった。
（どうか……てっぺん攻略後も星幽塔の皆といつまでも楽しく過ごせますように）

　美味しい料理を囲みながら、平和な『ねこよろず』の夜が更けていく。

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