寝子高式！　ふれあい写生大会｜リアクション

寝子高式！　ふれあい写生大会

　一行は校舎西側から落神神社の鳥居前へと続く山道を登り、新緑に包まれた九夜山を登っていく。それほど時間をかけることなく、頂上展望台に到着できるはずだった。
「はっ、はっ……」
荒い息を吐きながら、八神修はとうとう立ち止まった。なだらかとはいえ山歩きにはそれなりの負荷がかかる。強い日差しに照らされて体が熱い。前から数えた方が早い八神が足を止めたことで、列全体も自然と止まってしまった。泉先生がかがみ込む修に声をかける。
「八神。大丈夫か」
「はい。……すみません。焦らず登れば行けます」
「気にするな、急がんでいい。ここで休憩とるぞ！　他に体調が悪い者はいないか？」
予想以上の暑さに辟易していた生徒たちから歓声が上がる。拒絶の声がないことに安堵しつつ、修は汗ばむ額を押さえた。
「おいおいやがみん、平気か？」
新井すばるが顔色の悪い八神を心配して近づいてきた。
「ああ……。悪いな」
「なーに言ってんだ。休憩増えてラッキーだから気にすんなって」
みんなの気遣いが嬉しく、しかし心苦しい。ただへばっているのが悔しくて、目の前の風景をクロッキーに描いてみたりする。ふと、頭の上が影で覆われるのに気づいて顔を上げた。
「八神君？　俺は2-5の天宮樹。よかったら一緒に登らないか？」
笑顔に落ち込みかけた心が和らぐ。そばにいる白い猫を見て、列の後ろにいた上級生だと思い出した。
「俺、悪いとこがあってあんまりハイペースで登れないんだ。一緒に登るといいんじゃないかと思って。どう？」
「ああ、ぜひ。よろしく頼みます」
山頂までのバディとなった二人は修のクロッキーを見ながら、楽しそうに会話を始めた。社交的な樹に促されて、修も自然と口数が増える。

　校長先生と泉先生の周りには、桜庭円と松谷洋志がいる。円はにゃーくんを抱き上げて、校長先生の前にかざす。
「にゃーくん、校長先生だよー？　ご挨拶してね」
洋志はかねてから興味のあった九夜山の謂われや歴史について熱心に尋ねている。
「落神伝説と火山の噴火にははっきりとした関係があるんですよね」
「九夜山はなぜ『9』で三夜湖は『3』なんでしょう」
など、珍しく多弁だ。島で生まれ育った泉先生と地学教師でもある校長先生の話から知識を得て、早くも洋志はスケッチの場所を決めたようだ。まるでテスト勉強のようなアプローチだが、これも彼らしさのひとつ。彼としては近くの女生徒より、先生たちと話していたほうが気が楽なのだ。

「体は休まったかな？　よければ出発したいんだけどね」
　校長先生の声に生徒たちはうなずいて立ち上がった。その中で猛烈なスタートダッシュを切った者がいる。大天使天吏だ。ふわふわした雰囲気の彼女が大荷物もものともせずに恐るべき速度で前進するさまは、それだけでものすごいインパクトがある。
「おいこら、大天使！　並べ。戻ってこい」
泉先生に呼び止められ、天吏の動きがぴたりと止まる。ぐるりと振り返ると、同じ速度でずざざと戻り、青野海仔の隣に落ち着いた。海仔は手足に念入りに虫除けスプレーをかけている。
「君もかけるか？」
大天使にスプレーを向ける。
「……うん。鳥はいいけど、虫はやだ」
海仔も虫は大の苦手だ。同じだな、と答える代わりに、無言で天吏の手足にもスプレーを噴霧してやった。

その間、握利平はいまだ己の生み出した魔と戦い続けていたのだった。
（しゃせいたいかい！　違う……！　違うんだっっ！）

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