寝子高式！　ふれあい写生大会｜リアクション

寝子高式！　ふれあい写生大会

　大天使天吏の絵は写生画というよりは、精緻なデッサンに色づけを施した作品のようだ。完成度の高い作品であったが、特に目だった点はない。
「他にはないのか？」
泉先生はさも、別な作品が隠されているのを知っているかのようだ。天吏は無言で紙を取り出す。びっしりと描かれた線、線、線。遠目に見れば一枚の線画、だが目を凝らすと野鳥のいた場所、風の方向、およその風速が記号で記されている。無数の記号と情報を表す線が寄り集まって、一つの風景画を作り上げていた。
「……これは私なりの、自然解読結果。……です」
天吏の『見えざるもの』とは、幻視や空想ではなく情報だった。情報が現実を塗りつぶす、斬新な作品に泉先生は満足げな顔をする。これは愉快だ、と評された。
　橘千歳はスケッチブックを閉じたままでいる。どうやら絵に何か問題があるようだ。
「あっ、あの！　私まだ完成していないので……どうしても納得いかないので！」
千歳が真っ赤になりながら、後で提出しますを繰り返すと先生も強くは言えない。品行方正、怠惰や不正とは無縁の千歳なのだから、きちんとした理由があるに決まっている。彼女だけは、特別に提出延期を許された。
（もやもやしてるうちに時間切れになって、ほとんど描けてないなんて言えないわ）
どこに行っても素直になれない。乙女の胸のうちは複雑である。

「先生ー。ハリーがいませんけど」
声が上がって初めて皆が気づく。もうすぐ午後四時、針ヶ谷夕市の姿がない。まだ空は明るいが、集合時間になっても姿を見せないのは明らかにおかしかった。
「俺が探してくる。校長先生、生徒たちをお願いします」
泉先生は早足で展望台を後にした。

「……がや。はりがや」
「針ヶ谷！」
肩に置かれた手に、夕市ははっとする。右手からスプレー缶がすり抜けて落ちた。
「もうとっくに時間だぞ」
「……あれ？」
「あれじゃない。皆は校長先生と山を降りたぞ」
「えーっ!?」
心底驚く夕市に、泉先生は困った奴だと言わんばかりの顔をする。
「夢中で描いたのがこれか。どういう仕組みなんだ？」
先生に『スカイキャンバス』をどう説明しようか。夕市はしどろもどろに答える
「え、えっと。木に糸張って、吊るして……でも脆いから……」
「ああ、ここから動かすことはできないんだな」
「そ、そう……やべ、片付けなきゃ」
「この絵は俺たちがこの場を離れるまでの命か」
泉先生は腕を組み、絵の中央に立って巨大な刹那の芸術を見た。夕市は思いつめたように先生に問いかける。
「先生。この絵、どうかな」
一呼吸の沈黙があって、泉先生の目が細められ、
「いいじゃないか。うん、いいじゃないか！　お前が見た一瞬の美、俺も確かに見せてもらったぞ」
「やったぁい！　泉のじーちゃん、サンキュ」
夕市は早く帰るぞ、と先生に背中を押されて山を後にする。写生大会最後の参加者が場を去ると、宙のキャンバスは霞のように薄れて消えた。

寝子高課外授業・九夜山写生大会、終了。新たな美の創造は、また次の機会に繋がれる。

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あとがき

担当マスター：清水るね
ファンレターはマスターページから！

寝子高式！　ふれあい写生大会、終了です。新米ゲームマスターの初シナリオにお付き合いいただきありがとうございました。海のものとも山のものともつかないマスターにご自分の身を預けるのはとても不安なことだったろうと思います。わたし自身もみなさんのアクションを魅力的な物語として描くことが、果たして本当にできるのか？　と不安でした。

とにかく、精一杯やらせていただきました。あまりお待たせすると、「自分写生大会でなにやったっけ？」とお忘れになってしまう方も出るでしょう。できるだけ早くリアクションをお届けすることを目標に、がしがしがしと書きました。

字数の関係から、簡略化させていただいたアクションもいくつかあります。実力不足でフルに再現できなかったこと、どうかお許しください。
特に問題のあるアクションは見られませんでした。皆さんのアクションはわたしの勉強にもなります。本当にお世話になりました。感謝しております。

ではでは、また次のシナリオで、よろしければお会いいたしましょう～(´ー｀～)

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