【星幽塔】第一階層　悠久なりや、サジタリオ城下町｜リアクション

【星幽塔】第一階層　悠久なりや、サジタリオ城下町

　――喫茶『迷い猫』

　寝子島から来た冒険者の１人、旅鴉月詠はふう、と額の汗を拭って店に戻ってきた。先ほどまで、彼女は幾つかの酒場と提携店舗に広告を渡していたのである。
　その広告というのは、店先にも張ってある物で、こんな事が書かれていた。

　『持ち込み調理、始めました』

「へぇ、おもしろそうっすね！」
　アルレッテの薬屋だけではなく、別の場所でも薬を売ったジーナ・レインガンドがその広告に目を留める。と、月詠は「そうかい？」と風に飛ぼうとした帽子を押さえながら頷いた。
「食材になりそうなものは、持ってくれば安い値段で、それを使って料理を作るよ。量と質によりほぼタダになる」
「それはそれでありがたいっすね！」
　ジーナが相槌を打つと、月詠は「ああ、或いは……」と言葉を続ける。
「キッチンを貸してあげるから自分で調理してもいいよ」
「冒険者向きの提案っすね」
　興味を持った様子のジーナに、月詠は「で……」と彼の金色の目を見る。
「つい話し込んでしまったが、寄っていくかい？　ここは一応店先だ」
　その言葉に慌てるジーナだったが、看板に気づいて……頷いた。

　月詠の店は、とても雰囲気がよくのんびりとした空気が漂っていた。店の端っこではファ・ルーがまったりした様子で料理を食べている。
　ジーナも腹ごしらえとばかりにカウンター席に座り、サンドウィッチとブレンドコーヒーを注文した。
　ちなみに、月詠も寝子島の住人だと知ったジーナは興味津々であれこれ聞いてくる。月詠としても退屈しないひと時を過ごす事ができた。
　彼との会話がひと段落し、月詠は先ほどの広告を見てふぅ、とため息を吐いた。
（まぁ、作りはするけど、食べるかは自己責任。例えば毒をもったヤツとかは……。基本的に、内臓は避けるよ。可食部位というのうは意外と少ない）
　ジーナにも語ったことなのだが、改めて思い出すと、難しい食材もあるものだな、と考える。お腹を壊したら解毒料理を作って売ろう、と真面目に考えていると、コーヒーを飲んでいたジーナが問いかける。
「そういえば、持込調理を始めたきっかけとかあるっすかね？」
「んー、どんな魔物がいるか、それがどんな生活をしているのか。どんな食材を流通できるのか……。そして、どんな調理が適切で美味しいのか。そういうのが自分の研究になるんだ」
　戦闘は柄ではない、と月詠が自分用にコーヒーを入れながら答える。ジーナが戦いもこなせるのか、はたまた己と同じタイプなのかは解らない。だが、何かあればどうぞ、と月詠は笑顔で言うのだった。

（しっかし、詐欺師に注意ねぇ）
　月詠はカップを傾けながら掲示板に目をやる。そこには『詐欺師に注意』というポスターが貼られていた。例の『伝説のお宝のありか教えます』という物だ。
　実はその頃レグルス・シェルタンが詐欺師の本拠地で大暴れしていたのだが、月詠は知らない。それに、この店には第三階層の土の竜の体内（にある土の都）から出土した宝物が展示されているからである。
「ゆっくり誰でも鑑賞できるのだけどね」
　月詠は「やれやれ」と肩を竦めながらため息を吐いた。

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　――夕暮れ・『Uisge Beatha』

（少し早いけれど……）
　アルレッテ・ザメニスは、店を閉めて市へ出かける。切れていた糖蜜を補充し、果物もいくつか買い込む。そしてその他生活用品を買うと帰宅した。
　軽食を取り、着替えると早速調合部屋に篭る。
「今日は何を作ろう？　傷薬あたりも作り足しておいたほうがいいけれど……」
　そういいながら薬草を幾つかすり合わせ、糖蜜と一緒に煮込む。そうやってできたのはのど飴だ。その他にも疲労回復に効果のある果物と薬草を組み合わせ飲み易いドリンクを作った。
（あのイメージのような薬を作るには、何が足りないかな？）
　アルレッテはレシピをめくり、考える。そんな時間も楽しくて、アルレッテは小さく微笑んだ。