【星幽塔】第一階層　悠久なりや、サジタリオ城下町｜リアクション

【星幽塔】第一階層　悠久なりや、サジタリオ城下町

破：街角の風景

（あぁ、なるほど……）
　と、レヴィ・カステラノスは悲惨な状態の馬車の車軸を見て納得した。彼女は飛び入りで入った配達の仕事を受けてここに来たのだ。
　依頼人曰く、荷物の積みすぎが原因らしい。既に早馬でいくらかは送ったものの、残っている分は間に合わない。そこでレヴィに声がかかったのだ。
　彼女は残った荷物の量や重さを見、頷きながら早速フレームパックに詰める。
「間に合いますでしょうか？」
　レヴィと見た目的にあまり年が変わらないだろう男性が、不安げに問いかける。と、レヴィは溌剌とした笑顔で答える。
「コレぐらいなら大丈夫か。なぁに、そういう事ならばっちりだ。うちの十八番は『重いを、早く』だよ。間に合わせてみせるさね」
　手早く且つ丁寧にフレームパックに荷造りし、背負う。彼女は「少し離れてな」と商人たちを下がらせると、背中の翼を思いっきり広げ、超低空で地面に風を吹きつけながら加速するレヴィ。その翼が風を穿つ音が響き渡り、彼女は笑顔と共に舞い上がった。
　荷物が重いときは、毎回こうやって彼女は飛んでいる。商人はその勇ましい姿を見上げ、どこか眩しそうに目を細めた。
「あぁ、これが『ローリング・ジャグ』……！」
　商人の呟きが、聞こえたかはさておき。唸り声にも聞こえる風切り音がレヴィの宣伝にもなっている、らしい。彼女は風の感触を心地よく思いながらも「間に合わせるとはいったが……」とにやり、と笑う。
（うちは先についてこそ、だ。手荒くいくぜ！）
　ちょっとの遠回りも惜しい、とばかりに彼女はぎりぎり通れるほどの路地を突っ切る。かと思えば建物の間を滑るように飛び、果ては下水道のトンネルも潜り抜ける。
　細かい部分は魔風の力で制御し、荷物は汚れはおろか傷１つつかない。それがプロというものだろう。彼女は途中で早馬を追い越し、時にアクロバティックな飛行で先を急ぐ。
「くっ、『ローリング・ジャグ』に負けてたまるか！」
（ん？　あたしもちょっとは有名になったのかね？）
　風に乗って聞こえた、早馬の騎手の呟き。だがレヴィは気にすることなく先を急ぐ。追いつかれそうになったのはほんの僅かな間で、彼女は路地を突っ切ると目的地を見つけた。まだ、早馬は１頭も到着していないのを見、受取人を確認する。
「そらよっ！　早馬より速い特急便の到着だぜ！」
「おぉ、ありがとうございますっ！！」
　レヴィの声に、妙齢の女性が頭を下げる。彼女は受け取りのサインをする。そして、「主人から言付かっています」とレヴィへよく冷えた紅茶と軽食を手渡してくれた。
「いいのかい？」
「えぇ。全力で飛んでくださるだろうから、と……」
　レヴィは「ありがとう」と報酬と共に受け取ると、爽やかな笑顔で
「またのご用命も、轟音印のジャグ・フレイターまで！」」
　と言った。
　その時、１頭の早馬が到着する。途中でレヴィに追いつこうとした者だ。騎手の女性はレヴィの姿を見、悔しそうに彼女を見上げる。だが、すぐに相棒である馬をねぎらい、荷物を降ろすのだった。
「あんたの『走り』もなかなかだよ。早馬の中じゃ、あんたが一番さ」
「誉めても何もない。荷物を安全且つ早く。それだけだ」
　レヴィの言葉に、騎手は肩を竦めて馬を厩へと連れて行く。その背中を、レヴィは苦笑しながら見送った。