cafe眠り猫へようこそ！｜リアクション

cafe眠り猫へようこそ！

　八神修は、新聞部として話題のカフェを記事にするべく《cafe眠り猫》を訪れた。
　写真の撮影や記事にする許可をきちんと取った上で、席に着く。
（話題のカフェ、新聞部としては放置できないよな）
　なんて考えていたところに――店内へ足を踏み入れたばかりの《彼女》の姿が目に留まった。
「あおい？」
「あれ？　修君？」
　きょとりとして目を瞬かせる七夜あおいの姿に、胸にあたたかいものが満ちる。
　修の席の前までやってきて、あおいが言った。
「偶然だね、修君」
「ああ、少し驚いたよ。良ければ、一緒にどうかな」
　店内は、そこそこの混み具合だ。
　それを確かめて、あおいは「じゃあお言葉に甘えて」とにこりとした。
「ここのカフェメニューって甘い物が多いみたいだけど、修君もそういうの好きなの？」
「え？　まあ……うん、甘い物は嫌いではない……よ」
　あおいの弾むような声は耳に楽しいけれど、甘い物が好きだとは言い辛い複雑な男心。
　ちらと、あおいの方を見遣る。
　全部見透かしたようなあおいの眼差しに、お手上げだと修は軽く手を上げた。
「……勉強した後に一寸摘んだり、ね」
「ふふ、修君ったら、だったら好きって言えばいいのに」
「あ、夜は食べないぞ。まんまるになっちゃうからな」
「わ、女の子の前でそんなこと言っちゃうんだ」
　修がふっと悪戯に笑み零せば、あおいは唇を尖らせて――やがて、堪え切れなくなったように破顔する。
　そんなやり取りの後で、２人はメニューの頁を揃って開いた。
「俺が気になるのはスコーンとジャムかな。ああ、ストロベリーティーも飲みたい。あおいはどうする？」
「私は……うーん、フレンチトーストにしようかな。それとバニラミルクティー」
　注文を済ませて暫くすれば、テーブルに並ぶ甘味達。
　わあ、と、あおいが嬉しそうに声を上げた。
　その様子に目元を和らげながら、ストロベリーティーを喉に流す修。
　ふわりと、あの日の記憶が蘇った。入学式の日の出来事だ。
「――あおい。入学式での企画、手伝ってくれてありがとう」
「ううん、私も楽しくやれたから。後輩の皆も、喜んでくれてたしね」
「後輩か……そうだ、家庭科同好会に新入生は入ってきた？　新聞部や射撃部は、入部あったけど」
「うーん、どうだろ。最近あんまり顔出せてなくって……でも、料理とか結構頑張ってるんだよ」
　眉を下げたかと思ったら、次の瞬間には得意げに表情を華やがせるあおい。
　そんなあおいを前に、修は微笑んで、スコーンをぱくりとした。
　スコーンに付けたジャムは、甘すぎない、果実の小さな塊が残った修好みの物だ。
「美味いな、このジャム……そういえば、この前、パンを作ってみたんだ」
「パンを？　すごいね、どんなのを作ったの？」
「基本の丸パンだよ。一寸歪んじゃった」
　軽く肩を竦めれば、あおいがくすりと笑う。
「そうなんだ。修君でも、そういうことがあるんだね」
「でも、味は悪くなかったよ。スコーンはどう作るんだろう」
「修君なら、すぐにスコーンも作れるようになりそう。上手にできたら、写真、見せてね」
「え？　……なら、頑張って作らないとだな。パンも、スコーンも」
　何なら一緒に作ろうか、なんてあおいに笑い掛ける修。
　そんなふうにして、２人の時間は、楽しく穏やかに過ぎていく。