cafe眠り猫へようこそ！｜リアクション

cafe眠り猫へようこそ！

　それは丁度、世に言うおやつの時間を幾らか過ぎた頃のこと。
　店の前に置かれた黒板をじーっと見つめて、椿美咲紀はこくりと喉を鳴らした。
（《cafe眠り猫》……店の名前もけっこう好みなのですが……）
　何よりも美咲紀の心を惹き付けたのは、黒板を彩るカフェメニューの数々だ。
　そのきらきらしさといったら、もう！
「とっても美味しそうなのです。スイーツ大好きなワタクシ、ここを見逃す事は出来ないのです！！」
　ぐぐっと拳を握って、意気込みたっぷりにカフェの扉を開ける美咲紀。
「こんにちはなのですー！」
　と元気良く店内に足を踏み入れれば、「いらっしゃいませ」と笑顔が返った。
　ちょっぴりだけ遅めのおやつを楽しんでいる人が多いのだろうか、中々の混み具合だ。
　運良く空いていた席に座り、改めてメニューを見遣る。
　やっぱり美味しそうだと、勝手に頬が緩んだ。
（どれも捨て難いのですが……ここは、フレンチトーストとアールグレイのミルクティーで！）
　ストロベリーティーも気になる。気になるのだが、
（ここのフレンチトーストには、アイスとメイプルシロップが付いているのです！）
　メインの料理が甘め故に飲み物は甘さ軽めで行きたい、というのが美咲紀の決断。
　ストロベリーティはまた次の機会にっ！　と、美咲紀はえいと注文を済ませた。
（すっごく迷ったのですよ。だって、どれも美味しそうなんだもの）
　そんなことを思いながら、そわそわとしてフレンチトーストの完成を待つ。
　あまりにも落ち着かないので、美咲紀はちらりと辺りに目を配った。
　フレンチトースト以外のメニューも、実物がどんな感じなのか見ておきたい。
（む、トーストの猫印、可愛いのです！　それにしても賑わってますねー……って、あ！）
　心の中で、美咲紀は叫び声を上げた。
　隅っこの方の席に、見知った顔を見つけたからだ。
　犬杜初が、スコーンにジャムをたっぷりと乗せている。
　席を移動することを店員に伝えて、美咲紀は初の元へ。
「初ちゃん発見！　なのです！」
　声を掛ければ、何やら考え事をしていたらしい初が、パッと顔を上げる。
「び、びっくりしたぁ」
「御挨拶に来たですよ！　初ちゃんもここのメニューに呼ばれて来ちゃったですか？」
　にっこりとしてそう尋ねれば、初はスコーンを皿に置いて、こくりと頷いた。
「まあ、そんな感じ、かな」
「カフェメニュー、どれも美味しそうだもんね。あ、そうだ、初ちゃん。今年は同じクラスですね」
「……うん」
「改めて、よろしくお願いしますなのですよ」

「仲良くしてくださいなー♪」
　と、人懐っこい笑顔を美咲紀が向ければ、初も「よろしく」と少し笑った。
「ところで初ちゃん。ここのメニューとてもオイシそうなのですが、カロリーの事を考えると怖いですねー」
「う。あんた、それ言っちゃう？」
「大事なことなので言っちゃいます。ウォーキングしたらダイジョブかな？　１時間は歩いた方がいいかな？」
「運動もいいけど、今日の夕飯は控えめにした方がいいかもね」
「ぐっ、ダイエットの道は険しいのです……！」
　なんて、ダイエット談義に花を咲かせていたところに、美咲紀のフレンチトーストが届く。
　バターが香る熱々フレンチトーストの上に、バニラアイスとメイプルシロップ。
「なんて魅力的で、それでいて背徳的な……！」
　もっとカロリー少なそうなメニューにすれば……と後悔が僅かに胸を過ぎったが、
「しかし、この誘惑には抗えないのです、仕方ないのです！」
　と、美咲紀はフレンチトーストを一口ぱくり。
「ふわあ、美味しい！」
　頬に手を当てる美咲紀を前に、初の手はすっかり止まってしまっている。
「あれ？　初ちゃんどうしたの？」
「……そんなに美味しそうに食べられると、誘惑が……」
「ふっふっふ。初ちゃんも今日はウォーキングコースですかね」
「うー、やーだー」
　葛藤する初を前に、美咲紀は思う。
（家のメイドさんへ、お土産にパン買って帰ろうっと）
　スコーンとクロワッサンと、それから食パンも買ってしまおうか。
（明日の朝食は美味しいパンですね）
　楽しみなのです、と、美咲紀はまたフレンチトーストを頬張った。