政治経済特殊講義　～需要と供給と金儲け～｜リアクション

政治経済特殊講義　～需要と供給と金儲け～

【鰐淵碧緒の場合】

（与えられた状況においてできるだけ高く売れか……いくつか思いついたものを書いてみるかな）
　そうしてそれを書いた結果、松沼先生は実演を要求し、目の前にはOL役として五郎八が、サラリーマンとしては刀が、女子高生として真央と　博美が選ばれて、それぞれにかけられる言葉を待っていた。
（どうしてこうなった！）
　緊張しつつも声をかけてみる。
「こんにちは、お姉さん。具合悪そうだね」
　そう問いかける碧緒にOL役として五郎八が応える。
「ちょっと体調不良で……」
「体調が悪いときは自販機の冷い水より常温のお水の方が体にやさしいからこのお水を買わない？　２００円でいいよ」
「ありがとう、でも自販機で買ったのを常温に戻してから飲むから大丈夫」
　というわけで失敗１つ。
　次に、サラリーマン役の刀に話しかける。
「新しいビジネスモデルがあるのだけど出資してもらえませんか？」
「いきなりだな」
　おっかなびっくり碧緒に応える刀。
「今、コンビニでは常温のお水やお茶を販売しています。でも駅には自販機だけで常温のお水の販売がない。そこでここでお水を売るシステムを構築したいのです」
　返答に困り刀は松沼先生の方を見る。
　松沼先生は無表情にやりとりを見ている。
（くっ）
　刀は必死にサラリーマンとしての言葉を探した。
「すなまい、話が急すぎて無理だ……それに電車が来てしまった」
　結局刀は断らざるを得なかった。
　そして、最後になるだろうか、碧緒は真央と博美らに話しかける。
「きみたち、ちょっとしたバイトしない？　このお水を誰にでもいいからできるだけ高く売ってきて。１万円までなら売上の１/３を、それを超えたら半分を君の取り分にしていいから」
「……胡散臭いのだ」
「それに、どう売ればいいか分からないし……」
　真央と博美は顔を見合わせて首を振る。
「あ、日本らしく女子高生に排泄物の買取を条件に売って、排泄物を買い取って、それをサラリーマンとかに売りつければ……」
「それは犯罪だぞ」
　だんだんと暴走を始めた碧緒に松沼先生はストップをかける。
「アイディアは悪くないが、今一歩言葉が足りない。が、過程の部分は評価する」
　そう言って皆を席に戻す松沼先生。
　出席簿には『良』と書かれた。
「日本の経済は難しいな」
　そっと碧緒はため息をついた。

【授業が終わって】

「今回の点数はあくまで大学的な評価方法であるから、不可となったものにも出席はつけているので問題は無い」
　そう言ってチャイムと同時にさっさと松沼先生は職員室へ行く。
　そしてその後。
　職員室では空音が松沼先生の前で熱弁をふるっていた。
「先生！あたし将来は総理大臣になりたいんです！　本気です！　お勉強はそこそこ頑張ってます！　他に何をしたら総理大臣になれますか！？」
「……どうやら、本気のようだな」
　松沼先生はため息をつくと、一冊の本を取り出した。
　それには政治の仕組みとシステムが書かれた高度な一冊だ。
　それは、果てしなき道のりの一歩となるのかそれは誰にも分からない。
「もし、進路相談をやるのなら、別に機会を設けるその前に、これを読んでおきなさい」
　そう言って、先生は空音を職員室から出した。
　そして、巴や仄に対する説教を開始するのであった。

おしまい

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