猫鳴館を知ってるかい？｜リアクション

猫鳴館を知ってるかい？

　夏朝は、廊下や柱の木材の材質をチェックしています。
「ええと、この木材は……」

「しっかし、なかなか潰れそうで潰れないよな、この寮」
　２年住んだ角の部屋で荷物をまとめながら、なんとなくやる気なさそうな眠そうな顔で北里雅樹はつぶやきました。
　最悪に不仲な親父と同じ家に住めるかとばかりに家を出て、猫鳴館に住み着いて早三年。
　入寮した当初はどんびいてしまいましたが、さすがに三年も住めばそれなりに悪くないと思えるのだから不思議なものです。
　とはいえ、日当たりが最悪なのと夏暑く冬寒いのさえなければ、の話ですが。
　今住んでいる部屋は位置が最悪で隅っこの部屋のせいか年中ジメジメとしていて夏の暑さはシャレにならないし、冬は他の部屋と比べても体感温度が低すぎて凍りそうでした。
「だがこの部屋も今日でおさらばだ」
　雅樹は、卒業した先輩に空き部屋を譲ってくれるように頼んでいたのでした。
　明るく軽い性格の雅樹はやる気なさそうに見えますが、興味があるものについてはそれなりに真面目に取り組む性質でした。
　普段から先輩が苦手な理数系の勉強とか教えて成績をアップさせ、ちゃっかり取り入った甲斐があったというものです。
（そして今日からは俺は天下の三年生。つまり軍隊の階級で言えば元帥とか上級大将とかそういうレベルに達したのだ。これでもう怖いものはない……）
　というわけで、いよいよ引っ越しです。

　廊下に荷物を運び出すと、通りかかった夏朝に声をかけられました。
「お引越しですか？　荷物を運び出された後のお部屋を掃除してもいいですか？」
「構わないけど、この部屋環境最悪だし住むのはやめたほうがいいと思うぜ」
「空き部屋を重点的に掃除したいんです。人が住んでる時じゃできないから」
「それならよろしく」
　部屋に入った夏朝は、床を丁寧にチェックしていきます。
　抜けていたり抜けそうな所があれば、館の皆に報告した上木材を買って補修しようというのです。
「ここはまだ大丈夫そう……」
　けれどあちこち点検をして、抜けそうな箇所も何か所か見つかりました。

「前の部屋に比べると広いしジメジメしてないし快適だ」
　無事引っ越しを終え先輩の部屋に落ちついた雅樹は満足そうです。
　少し床がミシミシいうのは気にかかりますが、聞かなかったことにしましょう。
「そういえば、今日は新入生が来るって言ってたな。鷹取と一緒に歓迎の準備でもするか」　