猫鳴館を知ってるかい？｜リアクション

猫鳴館を知ってるかい？

※新入生到着！

「ここが……」
　６１年の歴史を感じさせる、聞きしに勝るボロい建物の前で、桃笑は立ちすくみました。
（こういう時は最初が肝心。ちゃんと自己紹介しないと）
　思い切って引き戸を開け、挨拶しようとしました。
「こんにちわー、新入生の……」
　しかし、玄関へ向かって一気に埃が押し寄せてきました。
「……って、うわー……なんか、予想してた以上に……すごい」
　慌てて口を押えて横を向きます。
（これは掃除しないと使えないわね）
　もうもうとした埃が晴れると、薄柿色のロングヘアの女の子が立っていました。
「新入生なの？　よろしくなの！　あたしは自治会長の橘明里、天使なの」
「谷咲桃笑です。よろしくお願いします……」
　大きな目と八重歯でにっこり微笑んだ明里に、微笑み返しながら、最後の言葉に「？」となる桃笑。
　慣れている夏朝は動じることなく掃除道具を取り出します。
「こんにちは。大掃除するんだったらもちろん手伝うよ。掃除の後、床の抜けそうなところとか、柱の傷ついたところをチェックして修繕しようと思うんだ」
（柱の中心部分や縁の下の木材まで損傷してたらさすがに僕では……）
　と思いつつも、できるだけのことをするつもりの夏朝です。
「わかったなの。よろしくなの」　
「穴があった、塞ぐぞー」
　二人の話の間にも、掃除しているらしき会話や物音が聞こえてきます。
（なんか大掃除してるみたいな雰囲気だし、先輩たちとの交流も大事よね）
　そう思った桃笑も申し出ます。
「あたしも掃除に参加します」
「助かるのなの♪」
「あの、自治会長さんってどんな仕事をするんですか」
　掃除しつつ、先輩方に色々聞いてみる桃笑。
「寮の管理のお仕事なの。ちゃんと真面目にやることはやってるなのよ。むずかしいけど……」
「大変なんですね」
「おっ、新寮生か？　よろしくな！」
　そこへ博美が顔を出しました。
　博美の姿を見るなり、桃笑は赤面＆挙動不審になってしまいました。
（……話しかけるのがどうしても女の先輩に偏ってしまうのは仕方ない……！　男の先輩に話しかけるとか、ああああああたしにはまだハードル高すぎるわ……！！！）
　実は桃笑は、男性とろくに喋ったことがないのです。
「そう、大変なの。でもがんばるなの。うーん、この書類、むずかしいなの……」
　幸い明里は書類の解読に頭を悩ませていて、桃笑の挙動不審には気づいていない様子でした。
　博美も少々気になりつつ、掃除に忙しくすぐに引っ込んでしまいました。　

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