【風太くんの宇宙大戦争（３）】

　二宮 風太と柚瀬 玲音、夕鈴 翼の３人が、それぞれにスペースマシンに搭載されたスペースウェポンをバリバリとぶっぱなし、不定形宇宙生物たちをやっつけておりましたところ。
「え、ええーっ！？」
「玲音ちゃんがもうひとりいますよ！」
　風太と翼は、目の前に現れた新手の敵を目にするなり、びっくり仰天。
「……もうひとりのボク！？」
　そこには確かに、鏡に映った玲音のようにうりふたつな、もうひとりの玲音が立ちはだかっていたのです！
「わはははは！　これがデス・カーン帝国の科学力だぜ！」
　ごごごご……いよいよ地球圏内へと姿を現した、宇宙魔王デス・カーン・ザブローこと山田 勘三郎が、不敵に笑います。
「仕組みはよくわかんねぇけど、このアメーバっぽい宇宙生物は自由に姿を変えられるのだ！　自分との戦いという試練を、お前は乗り越えられるかっ！？」
「……バトルモードに変形だ！！」
　けれど玲音は恐れず、退かず！
　宇宙マウンテンバイクがガキガキガコンと変形して、フレームは玲音の身体を覆うパワードスーツに。ふたつのタイヤは肩部のブースターへと変わり、炎を噴きながら突撃！
『変身完了。これでフルパワーが出せるぞ、玲音』
「スーパーレインガールだよ！　だよ！」
　見るともうひとりの玲音もまた、同じように宇宙マウンテンバイクを変形させ、ダークレインガールに変身！
　ふたりは長年しのぎを削り合ってきたライバルのように、おたがいこくりとうなずき合うと、美しい地球をバックに互角の戦いを繰り広げます。
「ボクたちも、玲音ちゃんに負けてられませんよー！　いきましょう、風太くん！」
「う、うん！　がんばるぞーっ」
「よーし、来い！　決戦だぜ！！」
　翼のヘビーマシンは搭載された重武装のすべてを根こそぎ撃ちまくり、風太の宇宙船ともども、デス・カーン・ザブローとの決戦に臨むのでした。



　仙藤 蒼と仙藤 紫の仙道姉妹、金剛 恵と奈良橋 博美の四人は今、大ピンチを迎えておりました。
　なにがって、乙女の大ピンチです！
「っ、お姉ちゃん！」
「蒼には指一本触れさせないわ……！」
　ビームガンとレーザーソードのみの軽装で立ち回る蒼のニャンダムに、それを援護する紫のフルアーマーニャンダムの十字砲火。
　その武器が火を噴くたび、
「攻撃したら」
「増えるって」
「言ってるのになー」
「あっ」
「もしかして」
「たくさんのあたしに」
「されちゃうのが」
「お好みかな？」
　増えまくる触手生物朝野 未沙！
「……と、とにかく撃ちまくるのよ、蒼っ！」
「う、うん！　黙って触られてやるもんか！」
　増えると分かっていても触手にゅるにゅるは御免被りたいわけでして、ふたりはまさに必死の抵抗を続けております。
　不定形宇宙生物を駆逐する魔法少女シンギュラルプリンセスフローラ・はるかこと恵に、トンビ型宇宙船を駆る博美のもとにも、触手ハザードはにゅるにゅるぞわっと押し寄せます。
「さー」
「わー」
「らー」
「せー」
「てー♪」
「じょ、冗談じゃないよ！」
　今の恵はまぎれもない女の子ですけれど……というより女の子だからこそ、マニアックな宇宙触手プレイは遠慮したい！　アストライアーステッキからまばゆくぶっといレーザービームを放って、アメーバ生物もろとも触手未沙を薙ぎ払います。
「わー」
「ぎゃー」
「そんなご無体なー」
「……！　根こそぎ消滅させてしまえば、増殖しない？　みんな！」
「なるほど、分かったぜ！　こうすりゃいいってわけだな！」
　恵が見い出した光明は通信によってすぐさま伝えられて、博美はトンビ型宇宙船を急加速させ、どかんと体当たり！　パッと油揚げに変わった未沙の分身を、ぱくりっと食べてしまいました。
「わーん、あたしのほうが食べられちゃうなんてー！」
　要領を得た蒼と紫もやがて合流し、恵と博美とともに、四人そろって反攻へと転じるのでした。
　実際捕まってしまうとらっ倫的にもアウトな描写になってしまいかねませんので、彼女たちにはできるだけ粘っていただきたいところであります……！



　いざ、決戦！　風太が不定形生物をちくちく撃ち落とし、玲音がもうひとりの自分と死闘を演じているさなか、翼はガトリングガンをデス・カーン・ザブローへと怒涛のごとく撃ち込んでいます。
「いけいけー！」
「わはは、ちょこざいなー！　そんな豆鉄砲じゃ痛くもかゆくもねぇぜっ！」
　巨大メタルカラスは宇宙魔王を名乗るだけあり、大火力かつすこぶる頑丈でして、重武装な翼のマシンが総攻撃を加えてもびくともしません。
　目からは極太ビーム、口からはバカでかい衝撃波を放って、翼を攻め立てます。
「さ、さすがに強いですねー……！」
「ラスボスだからなー、こんくらいできねぇとな。よーし！　出血大サービスで、もっとすげぇのを見せてやろうかな♪」
　楽しそうな宇宙魔王勘三郎が不穏なことを口走った、その途端に……ずもももも！　不定形生物たちがメタリックウィングへ寄り集まって、孔雀か鳳凰かといった豪華絢爛なゴールデンウィングへと変貌！
「うわわ、合体しちゃいました！？」
「第二形態ってやつだぜ！　この弾幕を避けられるか？　ふははははー！」
　黄金の翼からはまばゆく輝く光弾が雨あられと降り注ぎ、翼のマシンはその重装甲が裏目に出て、徐々にダメージが蓄積していきます。
　けれどもちろん、地球の平和を守らんとするパイロットたちだって、負けてはいません！
「うおお、なんて弾幕だ！？　椎井、こっちも撃ちまくれ！」
「分かってるわ。雅樹こそ、当たらないでよね？」
　北里 雅樹は光弾の嵐を超絶操縦テクで避けまくり、椎井 莉鳥が強力無比な対艦ミサイルを正確な狙いで撃ち込み続けます。
「ここからじゃ狙いにくいわ。１０時の方向へ飛んで」
「おいおい、一番敵の攻撃が激しいところじゃないか……」
「あら。避けられないっていうの？　自信がない？」
「やれやれ。ほんとに人使いが荒いよな……！」
　最終決戦でもいつもどおり。そんなのが、ふたりのスタイルなのかもしれません。とりとめない会話をかわしつつも淡々と避け、撃ち続けるのみ……！



　そして始まる、最後の総攻撃。
　蒼と紫は姉妹ならではの神がかった連携プレーを見せ、博美と恵も触手未沙をビームと油揚げ殺法で次々に撃墜。
　玲音同士、自分との戦いは拮抗しつつ白熱し、翼は風太とともに猛攻をしかけ、雅樹と莉鳥が放つミサイルとの波状攻撃が、少しずつ宇宙魔王の翼を覆う装甲を削り取っていきます。
　そんな激闘を繰り広げているさなかに、当のデス・カーン帝国総帥、宇宙魔王デス・カーン・ザブローは、少々物思いにふけっていたりしました。
「しかし、最後の散り際をどうするかだよな～。ここはベタに、『バカなぁー！』からの爆発四散かな？　それとも、『見事だ、宇宙の勇者たちよ……』とかなんとか言いながら、塵になって消えてくってのもオツだよな。うーん、迷うぜ……」
　宇宙魔王は実に宇宙規模なサービス精神の持ち主でありまして、第二形態への変身による盛り上げから、気持ちの良いやられ方までも考慮に入れている、なんともありがたいエンターテイナーっぷりなのでした。
　と、その時。
「わぁぁ、やられちゃうよ～！！」
　防戦一方で逃げ回る風太を襲う、無数の光弾！
　そこへ割り込むのは、翼のヘビーマシン。すでに穴だらけの火だるまになりながらも、緊急用のブースターにどかんと点火！　最後の力で風太をかばった翼は、
「悲しいけどこれ戦争なのよね」
「ゆ、夕鈴さぁぁぁん！！」
　うそぶきながら大気圏へと沈んでいきます。
「……はっ！？　これだぜ！」
　ぴきーん！　某宇宙新人類的なエフェクトを走らせつつ、勘三郎の頭に閃きが生まれました。
「ふはははは。少年よ、友の仇を討たなくてよいのか？　俺は逃げも隠れもしないぜっ！」
「ううううう～っ！」
　ここまでイマイチ、良いところのない風太くんですけれど……自分をかばってくれた友人の犠牲を無駄にしない程度には、彼もまた男の子でありました。
　ブースターＯＮ！　流れ星のごとく宇宙を激走する風太号！！
「地球の平和は、僕がまもる！　えええ～～～いっ！」
「ぐ、ぐわあああーーー！？　や、やられたあああ……！！」
　渾身の体当たりが、ぽっけ～～～ん……と気の抜けた音とともに炸裂！！
「……見事だ、勇者たちよ……！」
「や、やったぁ！」
　宇宙魔王はついに倒され、ちゅどばーーーんっと大爆発！　広がるその爆風は、
「あれ？　魔王さまやられちゃった？」
「ていうかこれマズくない？」
「あたしたちも巻き込まれちゃうよこれ？」
「「「っきゃあああ～～～」」」
　大増殖した触手宇宙生物、未沙の群れを丸ごと飲みこみ、根こそぎ消滅させてしまいました。
「本当は、ニャンダムにやられたかったけどな……！」
　魔王のいささかさもしいセリフは轟音によってかき消され、かくして彼らは恐るべきデス・カーン帝国を退け、勝利と平和を勝ち取ったのでした！



「よいしょっと。やりましたね～風太くん♪」
「あれっ、夕鈴さんだぁ！？」
　ちゃっかり脱出していたパイロットスーツ姿の翼は風太号によって救出され、事なきを得たようです。
　見ると、もうひとりの自分と玲音の戦いにも決着がつき、満足そうな笑みを浮かべつつ宇宙の深淵へと去っていくダークレインガール。
「……また戦おう！」
　永遠のライバルを、玲音はいっぱしの戦士の顔で見送るのでした。
　今回は見事、地球を守り切ることができました……けれど、油断はできません。宇宙は広大で、いつまた新たな宇宙人に宇宙生物、宇宙海獣が襲ってくるか分からないのですから。地球の平和はこれからも、彼らの力と勇気にかかっているのです……！
　パイロットたちは、なんだかんだでマップタツになっている地球と、その割れ目を繋ぐ虹色の美しい橋のきらめきや、その上にぷかぷかシャボン玉に包まれ浮いている寝子島と星幽塔……美しい故郷をあたたかい気分で眺めながら、次なる戦いへの決意を新たにするのでした。
　がんばれ！　たたかえ、スペースファイターたち！