【風太くんの宇宙大戦争（１）】

　遠い昔、はるか彼方の銀河系……ではなく、太陽系第三惑星地球とその周辺宙域にて。
　エッジワース・カイパーベルトに布陣した地球艦隊による迎撃作戦はことごとくに失敗を喫し、瞬く間に海王星、天王星、土星、木星、そして火星が陥落した。
　太陽系は宇宙魔王デス・カーン・ザブローとして即位し全ての銀河系を手中に収めんとする山田 勘三郎率いるデス・カーン帝国により、未曽有の危機を迎えようとしているのだった。
　そして今、豊かに実りし地球を収穫すべく押し寄せる、デス・カーン帝国の宇宙艦隊。人類の未来を左右する、最終決戦が始まろうとしていた……。



　といった、某宇宙戦争映画風の黄文字なオープニング・クロールがすっかり向こうへ行ってしまったところで、地球を覆う不穏な影。
「見よ、この巨大でメタリックな翼！　クールな角！　シャープなかぎ爪を持つ、格好良くもまがまがしい姿をっ！」
　というわけで、今回の勘三郎はラスボス役であります。
　宇宙帝国デス・カーンを率いる宇宙魔王にして宇宙大怪獣、デス・カーン・ザブロー！！　壮大なウソによって変身したのは、巨大メカカラスとでも表現したものでしょうか？　とてつもなくデカイ翼をはためかせながら、目からはビームを撃つし口から衝撃波を放ちますし、攻撃を跳ね返す反射バリアーだって完備しています。
「もちろんボスらしく、第二形態だって用意してあるんだぜ？　だから、遠慮も手加減もいらねぇ。地球を守りたいなら、全力でかかってきなっ！」
　えらくべらんめえ調なラスボスではありますけれど、ともかく地球がピンチです！
「さーて、かわいい女の子はいるかなー？」
　宇宙魔王を名乗るからにはもちろん、彼の下には恐るべき部下だって控えております。
　その名も宇宙触手生命体、朝野 未沙！　いつもならろっこん使用、水をかぶって変身するところですけれど、本日はもー最初からうねうねにゅるにゅるうねうねにゅるにゅる。全開です、地球（の女の子たち）がピンチです！
「それじゃーいこっか魔王さま。地球のかわいい子をぜーんぶさらっちゃうぞーっ！」
「な、なんか目的変わってねぇか……？　まーいいか、全力でかかってきな！　パイロットども！」
　魔王勘三郎を筆頭に、にゅるるるるんっな未沙に加え、配下である影のような陽炎のような、不定形の姿をした無数の宇宙生物たちまでも引き連れて、デス・カーン帝国はずごごごごっと侵攻を開始するのでした。



　でも、大丈夫！　地球には、高性能かつ強力な戦闘能力を誇る宇宙戦闘機と、それを操る優秀なスペースパイロットがいるのです……そう！
　我らが英雄、二宮 風太くん！
「よおし、僕が宇宙人をやっつけちゃうぞっ。えーい！　やあー！　とおー……あっ」
　ぼかん！　不定形生物が発射した、昔のアニメみたいな電撃チックなビーム攻撃を受けて、宇宙船風太号は手痛いイチゲキを被ってしまいました。風太くん出オチ！
　でも、大丈夫！　地球には、ほかにも優秀なパイロットたちがわんさかおりますもので。
「風太おにーちゃん、ボクも一緒に戦うんだよだよ！」
「一緒にがんばりましょうね、風太くん！」
「わぁ、ありがとう！　たすかったよぉ～！」
　すぐにもどぎゅんと飛んできた二隻の宇宙船が、風太号を強力にバックアップ！　柚瀬 玲音＆夕鈴 翼の、ちびっこコンビです。
　玲音の宇宙船は、なんと宇宙マウンテンバイク！　自転車のベルを鳴らすとどこからともなくやってくる、グリーンと黒のツートンがカッコいい、お父さんが作ってくれた頼りになる相棒なのです。
「今日も頼むんだよだよ！」
『仕方がないな。振り落とされるなよ、おてんば娘』
　しゃべった！　宇宙マウンテンバイクはＡＩ搭載で、玲音の戦いをフルサポートしてくれるのです。
　玲音自身もスペースヘルメットをかぶりスペーススーツにぴっちりと身を包んで、宇宙をしゅいーんと大爆走！　敵の攻撃をすいすいかいくぐりながら、手に持ったビームピストルからびびびびっと光線を放って、不定形宇宙生物を撃ち落としていきます。
　いっぽう、翼はと言いますと。
「いけいけー！　ワルイウチュウジンヲヤッツケロー！」
　どがががが、ちゅどばばばばばばん！　ばしゅんばしゅん、ずばばばどどどどどどどん！
　翼の乗り込むのは、ありとあらゆる実弾兵器をてんこ盛りに搭載しまくった、小学生の女の子らしからぬマニアックな重装型スペースマシンでありました。
　翼はどうやらトリガーハッピーなケがあるらしく、
「あはははは！　どんどん撃ちまくっちゃいますよー！　あはははは！」
　マシンに搭載された二門のガトリングガンに、いくつもの多連装式ミサイルポッドをばかすかと撃ちまくりながら、次々に敵を撃墜！　なんとも実に、楽しそうなのでした。



　そんなふうに風太、玲音や翼が奮闘しているお隣の宙域では、北里 雅樹と椎井 莉鳥、元カレ元カノ腐れ縁コンビが複座式戦闘機に乗り込み飛んでいます。
「正面から４体。右手から２体。正面は任せるわ」
「おう。右のやつにミサイル頼む」
　操縦担当の雅樹は、ロールで敵の光線をひょいひょい避けながら機銃で正面の敵を一掃し、後席のＷＳＯ……Weapons System Officer、いわゆる兵器管制士官を務める莉鳥は眉ひとつ動かさず、ぴぴっと敵をロックオン。納豆ミサイル的なアレでもって、敵宇宙生命体をどかどかどかんと吹き飛ばしました。
「……次、７時の方向に旋回。敵１３体確認、飛ばしてちょうだい」
「はいはい。パイロット使いの荒い管制官どのだなぁ……よっ、と」
　軽口をたたきつつも雅樹は飛んできたビームをくるりとかわし、自身の操縦テクにほれぼれとしつつ機銃のトリガーを連打連打。
　莉鳥は莉鳥で、まるで気のないそぶりながらも、敵の位置や飛ぶべき方向、使う武器などを逐一正確に把握して、常に雅樹へ淀みなく伝えています。
「せっかくの春休みに、何やってるのかしらね。こんなパイロットスーツまで着込んじゃって」
「またいつものやつだ、仕方ないだろー？　ほら、ミサイル頼むぜ」
「はいはい」
　突然の宇宙戦闘にも関わらず、ふたりのやりとりときたらなんと言い表しましょうか……まるでこれが、熟年夫婦がごとく淡泊かつスムーズでして。どんどんぱちぱちと、ふたりは星空へいくつもの花火を流麗に、えらく淡々と描き続けていくのでありました。