夢でトキメキましょう｜リアクション

夢でトキメキましょう

●It's a wonderland !

　八神修は七夜あおいとピクニックを楽しんでいた。
　花が咲き乱れる美しい庭園。芝の上に広げられたあおいお手製のお弁当。さあどうぞとあおいが笑顔で修に勧める。
　勿論修は喜んで頂く。何せ楽しみすぎて朝食を抜いてきたくらいなのだ。（いや別に空腹は最高の調味料だからではアリマセンヨ？　愛です！）グーグーなるお腹にあおいの手料理というご褒美を与えるべくパクリと食べれば、この世に２つとない数奇なお味。
「美味しいよ」
　修はにっこり笑って言う。その瞳は少々イッチャッテる気がするが。超個性的なあおいの手料理にぐるんぐるんと幻覚すら見えそうだ……アレ？
　修は目を擦った。目の前に、チョッキを着た白兎がいるのだ。
「大変だ！　大変だ！　遅刻しちゃう～！」
　兎は時計を見ながらピョンピョン跳びはね駆けて行く。
「え？　遅刻？　どこに？　君は誰だ？」
　修が問い掛ければ兎は振り向き、
「女王様のところだよ～！　遅刻したら首をはねられる！」
　言葉を残し、生け垣の穴にぴょんと飛び込んだ。
　顔を見合わせる修とあおい。２人の瞳はきらきらと輝いている。もう、答えは出ている。―――こんな面白そうなこと、放っておく訳がない！
　２人は立ち上がり、白兎を追いかける。そして思い切って穴に飛び込んだ。

　落ちる落ちる穴の果てまで。修はあおいの伸ばした手をぐいと掴んで引き寄せた。そのままあおいを抱いてどさりと落ちる。これぐらいはね。男だから！

　目の前には『イートミー！』と書かれた食べ物に金の鍵。ドアを開ければニヤニヤ顔のテオが木の上で２人を見下ろしている。
　白兎は女王の庭に行ったらしい。修とあおいが手を繋いで道を進めば、いかれたシルクハットをかぶったサンマさんのお茶会に出くわす。サンマさんがどうやってお茶を楽しむのか見ていたかったが、なかなか終わらないお茶会にまた２人は歩き出す。
　女王様のバラだらけの庭に着くと、玉座に座った理事長が一言２人に言い放った。
「退屈だけは許さないわ。首をはねよ」
　寝子高の教師達が揃って修達を追いかける。あおいと手を繋ぎ逃げるバラの迷路。ああ、あおい笑ってるね。そうだね、凄く楽しいね。それは、君と一緒だから。

　どこに行ったの白兎。走った先には王冠をかぶったまんぼう君。大きく膨れて―――ポン！　自分のたてた音にびっくりしてまんぼう君はきゅうと倒れる。その向こうに……いた！　白兎。
　白兎は２人にニッと笑うと、自分の背中についているチャックを開けた。中から出てきたのは。
「野々！」
　修が叫べばののこはきゃははと笑いながら駆けて行く。追いかけながら修はあおいを振り向き目を丸くした。
「あおい、その格好……」
　いつの間にかあおいの服はアリスの服装。驚くあおいに修は思わず見惚れてしまう。
「凄く似合ってるよ、あおい」
　あおいは嬉しそうに笑うと、修を指差した。
「修君も可愛いよ」
「え？」
　修が自身を見れば、水色のスカートからタイツを履いた足が覗いていた。頭を触ればリボンの感触。
　……ちょっと待てそれは誰得なんだーーーー！！！

＊＊＊＊＊＊＊

「！」
　星ヶ丘寮の自室で、修はガバリと起き上がった。ベッドの横のカーテンからは明るい光がこぼれている。
（夢か……）
　ふうと修は息をついた後、ふふと微笑んだ。楽しい夢だったな…………俺の服装はともかくとして。
　顔を上げると、卓上にあるあおいの写真と目が合った。ちらりと時計に目をやれば、もう朝と言うには大分過ぎている。休みだと思って寝過ごしたらしい。

　修は携帯に手を伸ばした。君はもう起きてるだろうか。楽しかった夢の話を、してみよう。君も同じ夢を見てたらいいな。
　夢でも、現実でも。俺はいつでも君に首ったけなんだけど。