双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

歩みに轢き砕かれ、
爪に裂き割られ、
剣に切り潰されて尚、
勝機は我らに――。

「コイツは返礼だ。御眼鏡に適わなければ…… 擂り潰せ」

　『縮身』に乗せたのは、『ストリケンデスペラード』。それは、KO時一度だけHPを１割回復させるスキル。その上一定時間だけ全能力値を大幅上昇させるおまけ付きの奥の手だ。これが切れればHPはたったの１だけになる。
　立ち止まる時間も惜しい、とばかりに繰り出されるは、急所への縦横無尽、疾風怒濤の連続攻撃。そこへ土龍による重力攻撃もあいまってケイファは身動きが取れない。
　だが、辛うじて目だけ動かせたのだろう。彼女は前線組を巻き込むようにマグマの津波を起こす。自分さえ巻き込む覚悟で発動した、『紅蓮の波』。だが、その一部が音を立てて消失していた。

　――喰らい尽くせ、影鴉！

　夜海霧楓が、刀『影鴉』がマグマを喰らっていた。これは魔法攻撃を受けると受けたダメージの半分をHPとして吸収する特性がある。マグマが魔法攻撃ではないかと睨んだ楓だが、見事に当たったようだ。
（燃える剣を捌いていたが、それでHPをちまちま回復できたのもおいしいな）
　と振り返る彼のそばに、屋敷野梢はいた。そして、繰り出されるは赤い衝撃。『胡蝶ノ舞・急』を使い、身動きひとつせず目を閉じて周囲の流れの空気を読んでいた彼女は、『紅玉の剣舞』と『紅蓮の波』の合わせ技の衝撃を返したのだ。

「これはおまけですよ！」

　同時にろっこん『胡蝶の詩』でマグマを蝶の群へと返し、周囲はほんのりと赤く輝く蝶で埋め尽くされた。
　その中を樹が叫びながら走りこむ。思いっきり振りかざしたバットは、勝利への執念。
「コイツを喰らえぇええ！」
　発動までに時間がかかるが、大ダメージを望める『大打撃』をぶっ放す樹。ケイファは尚も重力波で蝶を、スケバン重戦士を弾き飛ばす。だが、完全に飛ばす事はできなかった。

　――こ、これは……？！

　ケイファの視線の先で、何故か水守流がおやつを食べていた。オーソドックスなバタークッキーやボックスクッキー、ナッツたっぷりのロッククッキーなどの詰め合わせで、『SOC』でもちょっとのHP回復という効果がある。
　だが、それが空腹の流にはとても美味しかった。彼が持つろっこん『メシテロジツ』は『空腹時に食べ物を食べて、美味しいと思う』事で周囲の人が、術者が食べたものと同じ物を猛烈に食べたくなる、という物。そして、進化能力を得た『メシテロジツ』によって、人以外の生き物にも通用する。

　そう、ケイファは今、流が食べているおやつと同じ物が猛烈に食べたくなってしまったのだ。

　ケイファは長い間、そう、とても長い間魔力だけで生きていた。精霊は魔力だけでも生きていけるが、やはり長い間人間社会に溶け込んでいた分食事をとるようになっていた。ケイファもまたそうであったらしい。……故に、彼女の視線は、流のおやつに釘付けになっていたのである。

　――食べたい……。いや、ダメ、今は戦いの時なのだから！

「うわあっ！？」
　誘惑を振り切るようにケイファが重力波を放つ。流が避けようとすると、小柄な影が彼を突き飛ばした。振り返ると、真央が壁に叩きつけられている。
「へへ、無念なのだ……。真央ちゃんここまでみたいなのだ」
　そう呟き、真央の身体が七色のシャボン玉となって弾ける。回復の間もなく戦闘不能になった真央。流は「助けてくれて、ありがとな」と呟いた。
　そして、ケイファ周辺では瞬時に複数の煌きが巻き起こっていた。ケイファの足元に魔法陣が輝き、同時に出現する氷柱の檻。それは前衛組すらも巻き込む大きさだが、退路など今は要らない。八神修はMP回復ポーションを飲み干すと、勢い良く打刀の切っ先を天に向けた。

　――同時に降り注ぐは、金色の雹雨。

　『商人の心得』で呼び出したコインは、スピカが発動させた『氷檻』の影響を受け氷点低温となった虚空を通過。『氷覆』を瞬時に発動させ、大粒の雹を生み出したのだ。大粒の雹が落下エネルギーを得て、大ダメージを生み出す。
「……勝利を」
　スピカ・フォーツはそれだけを呟き、その場に崩れ落ちる。傍らに居た鷹司凜太郎がMP回復ポーションを飲ませ、仲間に叫んだ。
「もう少しだ！　そのまま突き進め！」
　同時に展開されるは、『青い慈雨』……味方を癒す光の雨に打たれ、にわかに活気付く。氷柱の檻の中、デスマッチは続いているのだ。
　氷柱を蹴って飛び掛る羽生碧南の身体には、ねこシール。後ろに下がって夏朝から回復してもらった際、ついた物である。夏朝が己につけようとしてそのまま彼女についたようだ。