双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

＊：＊：＊

　元々、『混霊界』という世界に私などの精霊族や天使族、魔族、人間が暮らしていたの。
　だけど、今『混霊界』の世界はとても不安定な状態よ。……『異界の神』を名乗る存在が、『混霊界』の均衡を保つ役目を担っていた極天使や魔侯爵たちを喰らったから。
　精霊たちをまとめていた私の父――阿修羅の王は天使長と魔王に相談を持ちかけられ、試行錯誤を繰り返し『混霊界』を救う手立てを時に人間の手を借りながら調べていた。
　その最中、『ソング・オブ・ケイオス』（以後ＳＯＣと表記）というこの世界のゲームを知り、この世界と極似している事を知った。阿修羅の王は、天使長、魔王と共に儀式を行いこの世界を『ＳＯＣ』に溶け込ませる事で均衡を保つ事を選んだわ。そう、他の極天使、魔侯爵に悟られぬように。もし、知られてしまったら恐らく止められていただろうから……。
　私は、その計画を知り、父から口止めされていた。だが、儀式を手伝った後に『異界の神』という存在に襲われ……ここに封じられた。

　この世界を救うには、『異界の神』を倒し、食われた者たちの力を、父上たちの力を取り戻して『ＳＯＣ』から切り離す事が必要なの。

　――その為に、私は、貴方たち冒険者の力を借りたい。

　＊：＊：＊

　――？　？　？

　全てを見ていた極天使たちと魔侯爵たちの間に、重い沈黙が降りる。明かされた真実に、彼らはなんと言えばいいのかわからなくなっていた。
「天使長様のお姿が見えないと思ってはいましたが……」
「魔王はんは元々引きこもり体質だったけれど、これはちょいと予想外だったねぃ」
　それぞれのまとめ役的な立場を担っていた極天使と魔侯爵が、真剣な顔で呟く。２人は顔を見合わせると頷き合い、その場に居る者たちへ向き直る。
「手が開いている者は、引き続き調査を。そして、異界の戦士たちの魂を鍛え、我々の戦いに手を貸してもらいましょう」
「新たな天使長と魔王の選出は脅威を取り除いた後だよぃ！　それよりも今はこの『混霊界』とあのゲームの世界を守る事が最優先さね」
　２人の言葉に、一同が頷き……その中から１人の極天使が優雅な仕草で膝を折る。
「次のレイドは、俺でしたね。どんなフィールドでもいいのでしょうか？」
「ええ、お任せします。他の皆さんも宜しいですか？」
　極天使のリーダー格がそう問えば、集まった者の中から花を髪にあしらった魔侯爵が勢いよく手を上げる。
「それじゃ、お願い！　彼の次は私に担当させて？　あの戦い見ていたらわくわくしてきちゃったし！」
「そんじゃま、それでいこうかねぃ」
　魔侯爵側のリーダー格のの言葉に、全員が頷き、彼らは己の役目を果すためにその場を去った。後に残ったのは、先ほど膝を折った極天使だけだった。彼は立ち上がると、僅かに口元を緩めた。
「異界の神がどんな存在か……。対策を打たせる為にも調べる必要があるな」

　＊：＊：＊

「そういう事だったのだ。なんだか、予想以上にスケールがでかいのだ」
　真央が、パソコンの前で呟く。戦闘不能になった後、気がついたら部屋に戻っていた。真央は深いため息をつきながら、額の汗を拭った。
　真央と同じように戦闘不能となった者たちは、自室でケイファが語ったことを知る。だが、たった一人。真白だけは、別の場所に居た。

　＊：＊：＊

「あれ？　ここって……どこ？」
　真白が我にかえると、防具以外のアイテムがない状態で暗闇の中に居た。不思議に思いながら歩いていると、少しずつ闇に目が慣れてくる。
（人の気配？）
　辺りを見渡すと、氷の上を歩いているような感触を覚える。そして、うっすらと見えたのは、鉄の檻。その奥にいたのは……冒険者らしい人々。だが、その目に生気はなく、ただマネキンのように佇むだけ。その傍らには淡く発行するステータス画面が浮かんでいた。
「何なの、ここ？　……！　もしかしてステータス『捕虜』になったPC？」
　息を飲んだ真白だったが、急に頭が痛くなる。嫌な予感がしたとき、真白もまた自室に戻っていた。
（何だったのかな、アレ）
　首をかしげる真白だったが、パソコンの画面に映し出されたステータス画面を見て困惑した。

　――この場所を、探して。

（終）

このページにイラストを設定する