双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

「まだまだいくよっ！」
　円が指揮棒をふるい、巨大な腕を出現させる。唸るチェーンソーがケイファの退路を断ち、確実にダメージを与える。
「いっけえっ！」
「合わせる！」
　九月と刀が同時に攻撃を仕掛け、刀の衣服に引っかかっていた亨が己のろっこんを解いて鋼爪を振るう。と、鈍い音を立てて鎖が１つはじけ飛ぶ。
（あと少しだ！）
　離脱する彼と入れ替わるように真央と真白がケイファへと飛び掛る。『メテオストライク』同様青い残像を残して飛ばされるケイファは、真央の一撃を喰らいながらも体制を整える。
　同時に幾筋もの炎が打ち込まれるが、囮を請け負ったのだろうか、梢が巧みな足裁きでそれを避ける。その死角から楓が攻撃し、鈍い音を立ててケイファの拘束具に皹が入る。
　膝を突くケイファだが、その目には爛々と闘志に輝いている。
（あぁ、ここが正念場なのかもしれないな）
　拘束具についたいくつもの傷を確認し、修が息を飲む。この成功条件は『解放した上での勝利』……ようは、あの檻だけではなくこの拘束具から解放し、全力をだすケイファに勝たなければならない、という事だ。
「フォーツ、大丈夫か？」
　ＭＰ回復ポーションを投げ渡しながら修が問えば、スピカはこくん、と愛らしく頷いた。凛太郎は前線組の中でもタンクを担う樹と真白へ『水塵』を添付し、少し離れた所に居た夏朝と流が回復に専念する。

「フィナーレもそろそろ、という所だろう。気合を入れていこう！」

　修が呼びかけ、亮がそれに応じ『地竜の鱗』を発動させ前線組に添付する。そうしながらも己もＭＰ回復ポーションを飲み干し、杖を握る手に力を込めた。

（ならば、俺も……コイツを呼び出そう！）

　詠唱を開始する亮の目の前で、それは始っていた。
　梢たち拳闘士を中心に攻撃し続けていたケイファ……の拘束具は、徐々に壊れてきている。それを確認した刀は、少し後にいた璃亜へＭＰ回復ポーションを投げ渡すと、「飲め」と小さく囁いた。
　璃亜は自分が持っていた分を流に渡す。流は刀と璃亜のやり取りに何かを察し、礼を述べるとすぐに飲み干した。
（くるぞ）
　刀が目で彼らに訴える。同時に、ケイファが重力波で纏わりつく前線組を弾き飛ばした。しかし、その時には楓が切りかかっていた。彼は花の蜜のキャンディーを噛み砕き、軽いステップで刀を振るう。――今、解放する、と言うように。
　鈍い音を立てて、手の拘束具が外れる。ケイファは僅かに瞳を細め微笑むが、次の瞬間、目が丸く見開かれた。『縮身』を解除した亨が鋼爪で足の拘束具を破壊したのだ。
「やっと壊れた！　『力を示せ』って言ってるんだもの。ハンデがある相手に勝利したとして、力を示した事にはならないよね」
　拘束具を優先して攻撃してよかった、と真白が納得したように何度も頷く。
「さぁ、何がでてくるかな……？」
　離脱しながら、楽しげに笑う亨。ケイファは僅かに息を飲み、困惑していたようだ。が、しかし。すぐに落ち着きを取り戻した。

　――ありがとう。
　　　ならば、こちらも本気を見せなくては……！

　ケイファが微笑んだその直後。

　……マグマが、四方から噴出した。『紅蓮の津波』のようにも見えたが、微妙に違う。立ち竦んでしまった夏朝は僅かに息を飲み、流が「こっちだ！」と彼女を自分の近くに引き寄せる。
「！　くるぞ、大技が！！」
「今のうちにＨＰとＭＰの回復！　手が足りないならポーションを飲め！」
　流が叫びながら身近な前衛に治癒を施し、修が手持ちのＭＰ回復ポーションを凛太郎に渡しつつ呼びかける。
　凛太郎は『水塵』をスピカや後衛に添付し、璃亜がソレに習って前線組に『水塵』を施す。戦闘中のイベントなのだろうか？　マグマが音を立てて戦場に溢れては跳ね、地震が起きて天井の岩が跳ねとんだ。
（！）
　僅かに見える、星空。スピカは迷う事無く己のろっこん『アストラル・ヒーリング』――『星が見える状態でお守りを握り念じる』事で、『視界内の任意の対象を治癒させる』ことが出来る。――を発動させた。赤い光に掻き消えそうになる水色の、星のような淡い光。だが、星乙女の祈りは、確かにぎりぎりまで持ちこたえていた仲間たちを癒したのだ。
「……ありがとう、スピカちゃん！」
　　夏朝は礼を述べながらも、いつでも『金猫』を飛ばせるようにしていた。
（拘束具が外れたってことは、向こうは本気でくるって事。ここで、ふんばらなくちゃ！）
　と、少女が決意を露にしたとき……目の前に土壁が現れた。