双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

「羽生さん、アシストするよ！」

　夏朝が叫んだ途端、碧南の身体が軽くなる。彼女のろっこん『重く軽く』によってより身軽になった碧南は歓声を上げながらケイファへと飛び掛る。
「もしかして、疲れてきたのかしら？」
　それに合わせ、複数の攻撃が続く。離されても猛攻を続ける亨。『胡蝶ノ舞・序』によってアクロバットな動きを見せる梢。３人の同時攻撃をわずらわしく思いつつ、ケイファは炎と重力波を同時に解き放つ。
（俺も、行かなくては！）
　修は走り出そうとして、酷い立ちくらみを覚えた。どうやら、予想以上にMPを使ってしまったらしい。
（計算が、甘かったかな……）
　MP切れ寸前の身体を引きずるように走り、修は前線組へと混じる。打刀状の氷でケイファを狙い、獲物を落すと、彼は力尽きその場に倒れる。
　あぶない、と思った九月が楓と共に修を回収し、ぎりぎりの所で流に回復を施してもらおうとした。だが、もう少しという所で３人目掛け炎が突き刺さる。楓が『影鴉』で取り込むも、その視線の先は地獄の様だった。
　氷柱が赤く輝き、氷柱が徐々に細くなる。その後ろにいた治癒士たちは瞬時に避けつつも前衛たちを治癒する。亮と円、スピカはMPポーションをがぶ飲みしながらそれぞれの術でアシストし、ケイファを追いかける。だが、『紅玉の剣舞』を三度発動させたケイファが、前線にいた者たちごと氷柱の檻を切り裂き、赤い軌跡を残しながら……魔導士たちを切り裂いた。

　最初に切り裂かれたのは、碧南。離脱する直前に掠めた一撃が、彼女を七色のシャボン玉へと変える。そのまま真白の『ぷち☆めてお』を弾き飛ばし、真白は膝をつく。

　碧南の姿が消えるその刹那、夏朝がろっこんの進化能力でねこシールをケイファへと飛ばし、重くしようと試みる。だが、間に合った筈の一手は燃える剣に阻まれて燃え尽きる。

　ルドルフから打ち込まれる砲弾を切り裂き、炎の一閃。亮が生み出した土壁すら崩れ落ち、凛太郎が回復しようと動くその前に、スピカが紅の剣に狙われる。咄嗟に庇う凛太郎ごと切り裂いた紅は、２人を七色のシャボン玉へと変えた。

　続く地獄の演舞。地龍の一撃すらも交わし、杖で向かう亮を切り伏せたケイファの一撃が、円を捕らえる。金属の盾をも切り裂き、円は苦笑いをしながら膝を突いた。
　都が足止めしようと矢を放つも、全て切り払われていく。
「「させるか！」」
　亨が、刀が追いすがる。その背中にあまたの傷を付けなら。だが、紅蓮の剣舞は止まらず、九月たちへと迫った。
（これってピンチかもっ！）
　九月が修を庇い、楓が立ち向かおうと２人の前に立つ。だが、その時だった。

　――させません！

　瞬間、眩い光がおこる。治癒を施したのは、塔ヶ崎璃亜。そして、その剣が深々と突き刺さったのも、彼女の身体だった。
「！　塔ヶ崎！！」
　楓が叫ぶ。璃亜は彼らへと振り返り、にっこり微笑んだ。

「せめて、これだけでも」

　璃亜の全身から、金色の輝きが毀れ出る。それはフィールドの床を覆い、複雑な文様を形作る。戦闘中に１度だけ使える、味方全体を対象にした『一定時間HP回復状態を付与』するスキル『聖母の揺り籠』が発動したのだ。
　璃亜は、気づいていなかった。その対象は自分も含まれると。彼女自身は自分のすべてと引き換えにしてでも発動させたかったのだが。

　立ち止まるケイファ。生まれる隙。それを亨が、刀が見逃すはずがない。
　『ストリケンデスペラード』の効果が切れる直前、亨が死に物狂いで鉄爪を振るい蹴り上げる。その後で脳裏に落される撃鉄。これが何度目かは解らない。ただ今求めるは、勝利のみ。
　兎……いや、着ぐるみさんが踊るような演奏を続ける。攻撃力と防御力、士気をがん上げする大激奏『沙羅曼蛇』が、刀を後押しする。

「決着を、つけようか……ケイファ！」

　刀は剣を振り抜き、その勢いを利用して回転しながら斬る。更にその勢いを利用して身体を撓らせ、力を溜めてぶった切る。

　――これが、冒険者の力……。

　ケイファの呟きが、虚空に毀れる。剣は消えうせ、炎の腕が彼女を包み込み、その身を燃やす。
（な、なんだ？！）
　亨を初めとする生き残った冒険者達の目の前でケイファの身体が燃え上がる。だが、炎が消えたときには、傷1つ無いケイファの姿が現れたのだった。

　――見事な腕前と根性ね、冒険者さんたち。
　　　私の負けね。

　ケイファはそういうと静かに地面へと降り立つ。彼女は冒険者達を手招きする。
「あのさ、ケイファ。１ついいか？　これ本当にゲームだけの問題なのか？　もしかして別の世界の事情が絡んでないか？」
　刀が問いかけると、ケイファは僅かに息を飲む。その反応に、九月たちもまた、少しが合点がいったような気がした。

　――そのとおりよ、剣士さん。
　　　これは、話が早いかもしれないわね。

　ケイファはそういうと、静かに語り始めた。
　彼女がここに閉じ込められた、その理由と共に。

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