自動販売機の精｜リアクション

自動販売機の精

●いちごミルクオレの精
（なんだ、あれ）
　志波拓郎は金色に輝く物体に視線を奪われた。
　眠そうに見える瞳でまじまじと見てみれば、それは自動販売機。
（きんきらきんで、メーカー不明……！？）
　拓郎は気付いた。この自販機、オレ系ドリンクが充実している……！
（イチゴミルクオレ！）
　可愛らしいピンク色のパッケージを見つければ、小銭はあるかとズボンをまさぐり。
「……あった」
　頬が緩むままに拓郎は小銭を投入し。いちごミルクオレのボタンを押した。

　出てきたのは、紙パックのいちごミルクオレ。
　ストローを袋から取り出し、プスッと突き刺した瞬間、ボワワワン！　と紙パックから白い煙が上がった。
（えええっ！？）
　後ずさる拓郎、手に持っていたはずの紙パックは消え……
「ごしゅじんさまぁん♪　はっじめましてぇ！」
　ツインテールで可愛らしい声色、濃いピンクのゴスロリワンピを着た、拓郎と同じ位の背丈の……屈強な男性がそこに、居た。
（悪夢だ）
　思わず己の頬をつねる拓郎。
「やぁん☆　ご主人様おねむ？　膝枕する？　抱き枕がいい？」
　男である。
　くねっくねと身を捩らせるも、明らかに生物学的に男である。髭を剃れ。
「なんでも願い叶えちゃうからぁん♪　さぁ、ご主人様の欲望の赴くままに、さぁ、アタシを好きにしてぇぇえ！」
　とりあえずいちごミルクオレを返してほしい、と言いたいけれどグッとこらえる拓郎。
「願いを叶えてくれる……って、急に言われても……」
「なぁんでも叶えて、あ・げ・る☆」
　徐々に距離を詰めてくる、いちごミルク男。
「なんでも、って……特に願いなんてないよな……願い……」
　うぅんと唸る拓郎。願いを伝えなきゃ喰われてしまいそうな切迫感が其処にある。
　その時。
　拓郎の頭にあの子の姿が浮かび上がった。直ぐに拓郎はスマホを取り出し、軽やかに操作をする。
「なぁに、いやぁね恥ずかしい画像なんて出さないでよぉ☆」
　喋りを苦手と思っている拓郎、上手いツッコミを入れることもできないが、恐らくそれは正解だ、コイツに言葉は通じない。
「こ、これ……食べたい」
　拓郎がバーン！　といちごオカマに見せた画像。それは大人気のスイーツ。
「物産展でも……取り扱い、なくって」
　正真正銘、北海道にまで行かねば食べられない。大人気で朝イチで並ばなければ買えない程に人気沸騰、その名も『北のとろけすぎる恋人』なるシュークリームである。
「こういうお願いでも、いい……のかな？」
「うっふふー♪　お安い御用！」
　ウィンクするオカマ精霊、怪しいがそれ以上にスイーツに対する拓郎の期待と欲求は止まらない。ソワソワワクワクと胸が高鳴る。
　それじゃ、行くわよ！　と精霊がパチン！　と指を鳴らせば。
「……ここ、本店？」
　ネットで見覚えのある店舗。イートイン席に拓郎は座っていた。だが辺りは静けさに包まれ、店員や客の姿は見えない。
「おまったせぇん♪」
　ウェイトレス姿に着替えたオカマ。拓郎の前にシュークリームの載った皿を差し出す。
「こ、これは……！　本店限定イートインバージョン……！？」
「あったりぃ♪　ちゃぁんと正規品だから安心してね☆」
　思わずスマホで写真をバシバシ撮る拓郎に満足そうな表情を見せる精霊。
「アタシのことを撮ってもいいのよぉん♪」
　……。
　無言で、写真を撮るフリをする拓郎だった。

「美味しい……！」
　北海道産生クリームを使用したクリームは想像を超えたとろけ具合。イートイン限定で添えられるバニラアイスがまた喉越し良い。
「精霊さん…ありがとう、ございます」
　スイーツを食べ終え拓郎がペコリと頭を下げれば、精霊は満足そうにまた指を鳴らした。

　気づけば、寝子島の自動販売機の横。
　夢か、と思った拓郎はスマホをチェックする。そこには先程のスイーツ写真がしっかりと。そして。
（撮影してないのに、なんで……！？）

　ちゃっかりオカマの姿も残っていた、そうな。