自動販売機の精｜リアクション

自動販売機の精

●ロイヤルミルクティーの精
　今朝のテレビの占いは椿美咲紀に伝えていた。
『いつもと違う道を歩くと、思わぬ体験が出来るかも☆』

「そう言えば、こっちの道はあまり通ったことはないのです」
　黒髪ポニーテールを揺らし、美咲紀は何気なく道を曲がった。すると、目の前には金色の自動販売機。
　ふむぅ、と自販機のラインナップを見れば、美咲紀の好むロイヤルミルクティーが。
　いつもならば自宅でメイドに紅茶を淹れて貰うが、たまにはジャンキーな紅茶も飲みたくもなるもので。
　よし、と電子マネーカードを取り出すも……
「はう、電子マネー使えないのですね！」
　はわわ、と慌ててコインを探せば、無事にドリンク代を見つけることが出来た。
「いざ購入なのです！」
　元気よく、美咲紀はボタンを押した。

「お嬢様、どうぞ願いを私めにお申し付けください……！」
　ロイヤルミルクティーの缶から現れたのは、サラリとした金髪の美しい執事だった。
　優雅に美咲紀へとお辞儀をし、柔らかく微笑む。
　不思議な現象に慣れもある美咲紀にとって、ロイヤルで気品ある執事風の精霊が現れたのは喜ばしいことであり。
「ふむふむ、何でも望みを叶えてくれるですか？」
「えぇ、お嬢様の仰せのままに……！」
　そういえば、買った紅茶はどこ行ったのだろう。元はと言えば紅茶が飲みたかったのだ、と美咲紀は思う。
「では、英国の午後のティータイムな感じで紅茶を所望するのです」
「アフタヌーンティー、と言う事ですね？　お嬢様」
「ヨロシクなのです。当然、三段の本格的なものでお願いするのです」
「かしこまりました、お嬢様」
　執事精霊が指をパチンと鳴らせば、自動販売機前であった空間はホテルの高層カフェへと早変わりした。
　英国王室をイメージした雰囲気、本格的なアフタヌーンティーを提供することでも有名であったその店。しかし、周りに人の気配はない。
「お待たせいたしました、お嬢様」
　席に着く美咲紀の前に、精霊が三段のティースタンドを運んだ。
　一番下にはサンドウィッチのプレート。ローストビーフやスモークサーモンが彩りよく挟まっている。
　真ん中の段にはぷっくりと膨らんだスコーン。プレーンとココアのスコーンの隣にはバターやクロテッドクリーム、クランベリーのジャムが供されている。
　一番上の段はフィンガースイーツ。プチサイズのシュークリームやマカロン、チーズタルトなどなど。食用花が更に華やかさを際立てている。
「紅茶はいかがいたしましょう、お嬢様」
「アッサムで。当然ミルクティーでお願いするのですよ」
　にっこりと微笑む美咲紀に、執事は優雅にお辞儀を返した。

「はう、美味しいのです……！」
　紅茶を飲み、軽食を取り。うっとりとした表情を見せる美咲紀。
　２杯目の紅茶は執事にお任せしたところ、アールグレイの茶葉を選んでくれた。
　ストレートでも十分な茶葉ではあるが
「私の好みで恐縮ですが、ミルクを入れるとオリエンタルな味わいになり、お勧めです」
　白を基調とし、オリエンタルリリーが配された茶器は優美さを感じさせる。
　お茶も、食事も。そして丁寧にお茶を入れる精霊の身のこなしも、美咲紀にとって満足の行くものであった。

「ご馳走様なのです」
　両手を胸の前で合わせ、美咲紀が声に出せば、いつの間にか風景は自販機前に戻っていた。
　己の手には、ロイヤルミルクティー。まじまじと美咲紀がその缶を見れば
「あ、茶葉はアールグレーだったですね！」
　メイドに頼み、アールグレ―のミルクティーを楽しもうと思う美咲紀だった。