自動販売機の精｜リアクション

自動販売機の精

●スポーツドリンクの精
　入江みつびにニコニコと笑いかけるのは自動販売機の精の一人、スポーツドリンクの精。
「自動販売機の精って、あれ？　神様みたいなもの？」
　明るい茶髪のポニーテールをふわりと揺らしながらみつびが少年姿の精霊に問いかければ、そんな大層なものじゃない、と彼は首を振った。
「それとも、あれかな？　この自販機を綺麗にしたらべっぴんさんになれるとか……！？」
「え？　ご主人様のお願いは『べっぴんさんになりたい』ですか？」
　今でも十分可愛らしいのに！？　と少年の表情は言いたげで。
「違う違う、そういう意味じゃないの。……う～ん、これは慎重に考えなきゃだね」
　みつびは腕を組み、眉間に皺を寄せていた。隣にはみつびをキラキラとした瞳で見守る少年。
（せっかくだし、自販機に絡めた願い事を……）
　みつびはピン！　と閃いた。
「よし！　じゃあ新商品の企画ごっこしよう！　私、企画部長ね！」
　突然の役割分担に少年はキョトンとした表情を見せる。
「あんたは専務？　わかった、大盤振る舞いで社長でもいいよ？」
　じゃ、じゃあ社長で……と答える精霊はどこか嬉しそうな表情。
「じゃあ、早速。はい、社長！」
　勢いよく挙手するみつび。
「どうぞ、企画部長！」
　みつびはコホン、と咳払いをし。
「では、私からの提案です。かまぼこの自販機を作りましょう！」
　おぉー、と精霊が拍手する。
「おでんの自販機がある位なんだから、かまぼこの自販機も実現が可能なハズです、いや、できないわけがない！」
　夏は冷えたかまぼこ、冬はホットなかまぼこ！　これで急に身体がかまぼこを欲した時もダイジョーブイッ！　とみつびが笑顔と共に可愛らしくＶサイン。
「わかりました、それではかまぼこの自動販売機を……」
「あぁあ、待って！　社長待って！　もう少し考える！」
　みつびが更に頭を抱えだしたのを見て、精霊は楽しそうに微笑んだ。
「時間はたっぷりあるし、好きなだけ考えてくださいっ」
　お姉さんと居るの楽しいし、と精霊は笑った。

「……思いついた」
　その言葉に精霊は顔を上げ、みつびの次の言葉を待った。
「私さ、小さい頃、山に登ったのね」
　みつびが子供の頃に何度か登った山。その山頂には自動販売機があった。山頂にあるその自販機は山を登り切った人の憩いともなっていたのだが。
「喉からっからで、山頂ついた！　ジュース飲める！　って思ったら、あーた」
　手をペシペシと何度か振るみつび。
「ジュースの値段が倍ほど値上がってて、買えなかったのよ！」
　持っていった小銭が足りなくて……あれは泣いたわ……と、みつびは遠くを見つめる。
「でね！　そういう人を見つけたら助けてあげて？」
　精霊少年の目線に合うように、みつびは腰を下ろした。
　そして少年の小柄な両肩に両手をそっと置き。
「雨ニモマケズ、風ニモマケズ……そういう自販機に君はなりなさい」
　真剣な表情のみつびに、少年もしっかりと頷いた。
「……うん。わかりました、ご主人様」　
　凛々しい表情で少年も頷けば。
「頼んだわよ。ね」
　と、みつびが可愛らしくウィンクを返した。

　それから後。
　某山の山頂付近の自動販売機はこっそりと有名になっていた。
　小銭が足りないとなると、偶然釣り銭口にピッタリになるように小銭が残っていたり、足元に小銭が落ちていたりする、不思議な自動販売機。
　その自動販売機には、スポーツドリンクとかまぼこの缶詰が並んで売られているそうな。

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