自動販売機の精｜リアクション

自動販売機の精

●『九夜山のおいしい水』の精
　水着バー『ジュエル』で勤務を終えた真境名アリサ。自宅へ帰るため、深夜の寝子島を歩いていた。
（あぁ、しんどい……）
　既に日付は変更し、すれ違う人もいない。街灯だけがアリサの姿を煌々と照らしている。
　
　ブラック企業から無理矢理卒業し、巡り巡って今は水着バーの副店長であるアリサ。沖縄出身であることから水着に慣れ親しんでいる、そんな気持ちから面接を受けては見たものの、まさかここまで仕事を続けているとは正直思わなかった。認められたからこそ副店長になれたわけだが……
（給料は上がったけれどその分責任もランクアップだし、覚えることは増えたしお客さんに気を遣うのは勿論、後輩キャストもフォローもしなきゃだし……）
　一日の疲労にガクリ、と肩を落とす。
　だけれど、だけれども。
　ちゃんと家に帰れる。ご飯を食べる時間もある。同僚との関係も悪くない。怒鳴り声もよっっっっぽどのことがなければ耳に入ることはない。勤めていたブラック企業より、全ッッッ然マシなのだ。
（あぁ、あと少しで家……！　早く寝よ……）
　何気なく見上げた空は曇っていた。アリサの疲れた体により重たさを加えてきそうな程に暗い空。
　アリサは沖縄で見ていた空を思い浮かべた。高い建物もなく、上を向けば星しか見えなかった日々が、少しだけ懐かしい。
　だが、今は寝子島。とりあえず帰ろう、身体を休めよう。そう思い、家への方向を見据えた瞬間。アリサの瞳に見慣れぬものが目に入った。――金色の自動販売機。
（こんな所にこんなのあったっけ？）
　いつの間にか設置されたのかな、と思いつつアリサは近づいた。自販機を見れば、己の喉の渇きを思い出し。
（んー、直ぐに寝るしカフェインはＮＧね……）
　ジュース……違う、栄養ドリンクでもないな、と自販機のラインナップを見ながら己の身体に欲するものを尋ねれば。
「よし」　
　アリサの白く長い指が一つのボタンを押した。それは『九夜山のおいしい水』なるミネラルウォーター。
　きっと恐らく寝子島のご当地ウォーターでミネラルたっぷり、美容にも良さそうだ。
　ふぅ、と息をつきながらアリサがペットボトルのフタを開くと……白い煙と共に、巫女装束を着た女性が現れた。
「……え？」
「汝、我の主と認識す。願いを我に」
　寝子島に住みだし、いくらかフツウではない出来事に巻き込まれていることもあり、多少の出来事に耐性は出来ている。
　だが全てが善とは限らない。身構えながらも、アリサは巫女に問えば。
「あなた、誰？　何が目的？」
「我、自動販売機から主の願いを叶える為に出現す。一つ、主の望みを叶える事こそ我が望みなり」
　古めかしい言葉と佇まいだが、害はなさそうだ。アリサはそう判断すると、軽く腕を組み、思案した。
「じゃあ、何がいいかな……あ」
　アリサの目の前に映るのは、曇った夜空。
「今日は曇り空で月も星も見えないから、綺麗な夜空が見たいな。寝る前に見たらきっといい夢が見られそう」
　巫女姿の精霊はアリサの願いにゆっくりと頷いた。
「御意のままに」
　巫女が手をパン、と叩けばその音に反応し、アリサの頭上を中心に雲が綺麗に流れていった。
「凄い……！綺麗」
　アリサは思わず目を見開き、瞼に映る星空に見惚れる。
「ありがとう、これで今夜は良く眠れそう」
　巫女の姿を探すが、既に姿を消していた。
　いつの間にか手元に戻っていたミネラルウォーターを口に含み、アリサはもう一度「ありがとう」と呟いた。

　その夜、アリサは夢を見た。
　沖縄での満天の星空を、浜辺で寝転び。波音を聞きながら、時間も何も気にせず、いつまでも眺める。
　ただそれだけでも、アリサにとっては心地良い夢だった。

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あとがき

担当マスター：金原りく
ファンレターはマスターページから！

この度はご参加いただき誠にありがとうございました！
初めまして様、再度お越しいただきありがとうございます！様、
今回も皆様の素敵なアクションにほっこりニヤニヤ執筆させていただきました。
とても楽しかったですっ。

私は缶コーヒーばかり選んでしまうのですが、皆様のアクションを拝見し
他のものも購入してみようと思いましたりっ。

どうかまた皆様とご縁がありますのを楽しみにしております。
ありがとうございました！

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