【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜｜リアクション

【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜

● 炎の壁

　一方そのころ。
　蠍鉄鉱の採掘場を出た月詠、アリス、アカリ、彰尋、悠月、ステラは、細い坂になった通路を登り、ヒヒイロカネ採掘場の前に辿り着いていた。ヒヒイロカネは希少な金属で、金より軽く、加工しやすく、合金するとプラチナより硬くなる。また、熱量を増幅する特性を持つので、炎系の能力とも相性がいい。太陽のように赤く輝くこの金属は、伝説とすら呼ばれている。
　その希少さゆえに悪心ある者が容易に出入りできぬよう、採掘場の入り口は炎の壁で守られていた。

「わ、なんだこの壁……ここ通るのか？」
　魔水の光を宿すアカリは、眉を顰めた。
「俺の光を使えばいけなくはねーと思うけど……むー、どうすっかなー？」
　燃え盛る炎はまるで赤い扉のごとし。
　蟻の入る隙間もないとはまさにこのことだ。
　するとアリスが、よいしょと石を運んできた。
「下からのガスに引火して燃えてるんじゃないかな？　石を置いてガス穴を塞げば炎が消えたり……」
　石を火の中に押しやる。
「……しないね」
「しないな」
　悠月は、ふむ、と顎に手を当てる。
　火は、石の上側にもカーテンのように広がっていた。下からガスが出ているわけではないようだ。
「魔法的な火かもしれないな。だが、俺のろっこんなら耐えられるかもしれない。――来島、協力しろ」
　途端にアカリは唇を尖らせた。
「……その物言いで協力を要求すんじゃねーっつーの」
「つべこべ言ってる場合か。お前程度の魔水でも無策で直接炎の中に飛び込むよりは幾分かましだろう」
　口調はきついが、信頼してくれているのはアカリにもわかる。
「むー。お前に命令されんのは癪、だけど。ま、内容によっては手伝ってやんねーこともねーぞ」
「よし。じゃあ……」
　悠月はアカリに自分の傍に寄るように言った。
「成功するかわからない。だから、俺たちで実験する。俺がろっこんを発動したら、障壁を覆うように、お前の魔水の力で水の膜を張ってくれ」
「わ、わかった」
　悠月はアカリの肩を抱きよせると、深く息を吸い、「守りたい」と念じた。
　自らが騎士となって彼を守るイメージを作り、歌うはひとつ前の階層で教わった朗々とした讃歌。すると、悠月を中心に半透明の障壁が現れる。これぞ、彼のろっこん＜Holly Knight＞の力である。

　アカリは頼まれた通り、魔水の力で障壁を覆うように水の膜を張った。
　悠月とアカリは、巨大なシャボン玉の中にすっぽり入ったようなかたちだ。
　謳いながら、悠月はアカリをリードして踏み出す。
　真っ赤に燃え盛る炎の壁に、障壁の端が触れる。
　じゅっ……と音がして、水蒸気が上がった。だが、障壁自体は無事だ。
　悠月は、アカリの水魔法を頼もしく思う気持ちを隠し、代わりに挑発するような目線を投げた。
「まさかこのくらいでへばっているんじゃないだろうな」
「まだまだいけるっつーの！　お前こそ、ここで限界じゃねーだろーなー？」
「まさか。余裕。これなら全員で行ける」
　ふたりは一歩下がり、いったん障壁を解除すると、今度は全員を自分の周りに呼び寄せ、障壁からはみ出てしまわないよう固まって動くようにと指示すると、再度＜Holly Knight＞で障壁を展開させた。
　アカリが水の膜を張る。
　歌い続ける悠月に代わって皆に合図をするのもアカリだ。
「いく、ぜ！」
　じゅうっ。
　障壁が炎の壁を潜る。炎にあまり厚みがなかったのは幸いで、歩みを揃えて一気に抜ける。
　ろっこんを解き、悠月が皆に確認する。
「怪我はないか？」
「大丈夫だ」
　彰尋が答える。
「さて。どうやらお出迎えのようだ」
　怪しい者たちが炎の壁を抜けてくるのに気づいたのだろう。
　フレイムゴブリンが３匹、メイスを振り上げて襲い掛かってきた！