【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜｜リアクション

【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜

● 蠍鉄鉱の採掘場探索

　ゴブリンたちを寝床の方で撃破したので、蠍鉄鉱の採掘場は静かなものだった。
　旅鴉月詠が、ろっこん＜絵空事＞で持ち込んだシュガーメロンスムージーと、ドラゴンキャベツの葉を使った巨大なロールキャベツに似た食べ物・回復のドラゴンロールを、疲労した仲間たちに配って回る。
「油断はしない為にも休憩は大事。スムージーはろっこんで保管してるからひんやりだ。自慢の品だよ」
　火口からは離れているとはいえ、坑道内は熱気が篭っている。
　大きな手傷を負った者は幸いにもいなかったが、連戦での疲労は目に見えてわかるほどだったので、この休息は大きなものとなった。

　獅子奮迅の戦闘を繰り広げた者たちが束の間の休息で疲れを癒している間に、月詠とアリスは蠍鉄鉱の採掘場を調べて回った。入り口付近と違って、このあたりの岩壁には赤い層がある。この赤い部分が蠍鉄鉱（さそりてっこう）だ。蠍鉄鉱は、この十二階層でのみ採れる鉄の一種で、加工すると武器に毒の効果を付加することができる。

　カンテラを手にふわりと飛びながら移動していたアリスは、ゴブリンたちが掘り出した蠍鉄鉱石が、奥の方に積まれているのを見つけた。
「これ、持って帰ったら第一階層のクレイグさんのところで武器とか防具に鍛えてもらえるかな」
　そう言って、こぶし大の石をひとつ手に取ってみる。鉄含みなだけあって、ずしりと重い。
「うーん。あまりたくさんは持ち帰れなさそう」
　すると月詠がにやりと笑ってさらさらとスケッチブックに蠍鉄鉱石の絵を描いた。

「心配ない。ここに封じてしまえばいいからね」

　ろっこん＜絵空事＞。どんなに重い物でも絵の中に封じてしまえば紙の重さにしかならない。
　次々に蠍鉄鉱石を封じ、掘り出された分がすっかりなくなると、岩壁にオーブが嵌っていたりしないかを調べて回った。
「壁には異変なし、と。アリス。オーブを見つけたかね？」
「ううん。ないみたい」
「ふむ。この先はヒヒイロカネの採掘場だったか。そっちかもしれん」

　休息を終え、一行はここで三手に分かれることにした。
　奥に進んでヒヒイロカネの採掘場を調べるというのは、月詠、アリス、来島アカリ、鴻上彰尋、獅子目悠月、それから戦闘中は応援一本槍だったステラ。
　左手の細道から、火口へ援護に向かうというのが、ザ・ストレイト、礼二郎、梢、庚。
　夏朝、メリィ、リリエルの三人は、寝床と採掘場付近に残ってオーブを探すという。
　火口組とヒヒイロカネ組がそれぞれの道の方へ姿を消すと、リリエルは改めて指さし確認。
「えっと、こっちが火口への道でこっちがヒヒイロカネ採掘場への道ですか。火口への道方面には魔法で岩の壁を作っておきますか。そうすればドラゴンがこっちに向かってきても時間稼ぎができるかもしれません」

　リリエルが土魔法を放つべく火口への道の方へ手を翳したそのときである。
「この道をふさぐのは待ってくれ！」
　火口の方から、修と亮が飛び込んできた。
「俺たちの作戦に協力してほしい」