桜花寮フルーツバスケット！｜リアクション

桜花寮フルーツバスケット！

○新たな出会い

「よし、準備OKっと」
　わくわくどきどきしながら、雨寺凛は部屋の掃除を終えた。
（荷物の整理や片づけは終わったし、あとは移動するだけだね）
　元のパートナーさんとは寮ではお別れだけど、同じ寝子高生だしいつでも会える。
「また学校でよろしくね！」
　淋しい雰囲気になっちゃうのは苦手だから、新しい出会いを楽しみにしたいな！　と思う。
「これからの新しい人との寮生活、どうなるかなぁ、わくわくするね！」
　思えば高校に入ると同時に初めて家を離れて寮暮らしを始めて。
（最初はいろいろ不安もあったけど、1年過ごしてみてとっても楽しかったな。2年生になって、心機一転、これからも楽しい寝子島ライフが続くといいなぁ♪）
　あくまで前向きな凛である。
　
（どんな人と同室になるんでしょう……？）
　たれ目に眼鏡の七瀬春華は、いつもびくびくおどおどしている気の弱い少女だ。
（中途半端な時期に転校してきたというのもあって、今までのルームメイトさんとはなかなか仲良くなれずに終わってしまいましたけど……）
　いい機会だし、新しいルームメイトさんと仲良くなりたい。
（不安もありますけど、仲良くなれるよう頑張ります！）　
　部屋割の紙に書かれた人の名には見覚えがあった。
（確かクラスメイトの……）
「あ、どうも！　七瀬春華さんだよね？　１年６組の」
　明るくフレンドリーな声に振り向けば、凛が人懐っこい笑顔を向けていた。
　無言でこくこく頷けば、
「えっと、雨寺凛です！　同じクラスだったよね。新しいパートナーとして、これからよろしくお願いしまーす！」
「はい、ええっと、こ、これからよろしくお願いします！」
「それじゃ、さっそくお引越しだね！」
「は、はい……」
　テンションの高い凛に引きずられるように、春華は後をついていく。

（私はそんなに大荷物ではないので、比較的楽ですね）
　と思っていた春華だが。
「ねえ、この箱の中身って、もしかして……」
　凛に問われ、
「……え、この箱の中身ですか？　CD、ですけど……？」
　基本的に自分に自信がない春華だが、歌だけは別で、将来は歌の道に進みたくて芸術科に入った。
　荷物の半分ほどは音楽CDなのだ。
「やっぱり！」
　凛が嬉しそうに笑う。
「私も音楽が好きで、軽音楽部の部長やってるんだ。春華ちゃんはどんなジャンルが好きなの？」
「ジャンルはポップスから演歌など様々で……あっ、す、すいませんすいませんすいません！」　
　同じ言葉を３回繰り返すのは春華の癖だが、突然のすいません三連発に、凛はぽかんとした。
「どうしたの？」
「聴く時はヘッドホンを使うのでそんなにうるさくはない……はずです！　でもでもでも、無意識に口ずさんでたりしたらごめんなさい！」
「なーんだ！　私も音楽と呼ばれるものならどんなジャンルでも大好き。カラオケ屋さんでバイトしてるくらいだから、気にしなくて大丈夫だよ！」
「……あ、す、すいません」
　また笑顔になった凛に、ほっとしながらもそう言ってしまう春華。
　『ありがとう』とか『良かったあ』はまだ敷居が高くて。
　今の春華が楽に言葉にできるのは、『すいません』なのだ。
「片づけが終わったら、ＣＤ見せてね。私のも見て欲しいし！」
　元気に言う凛に、心がじんわりしてくるのを感じる。　
　音楽が好きで、自分の趣味を許容してくれる人と相部屋って、なんて嬉しいことなんだろう。