桜花寮フルーツバスケット！｜リアクション

桜花寮フルーツバスケット！

○新しいルームメイト～小淋と月の場合

　前までお世話になっていた場所に挨拶しおえて、新学期を期に常闇月は旅行かばん一つで桜花寮へやってきた。
（同年代ぐらいの人間が多数住む環境というのは初経験です）
　集団に交わろうとせずにいることが多かった月は、クールな表情の下で内心ドキドキしながら食堂に足を踏み入れた。
　部屋割りの書かれた紙に、自分の隣に書かれていたのは、見知った名前……
　月の胸の中に、彼女の柔和で優しい笑みが浮かんだ。
　
　浅山小淋は、一年間一緒に過ごしたルームメイトさんと惜しみつつ別れの言葉を交わしていた。
『部屋は変わっても、これからもよろしくお願いしますね』
　交わすといっても、声を出せない小淋の会話はスケッチブックでの筆談だったが。
　そして、新しいルームメイトの姿を見つけた。
『これから一年間、よろしくお願いしますね。月さん』
【以前から仲の良い月さんとなら、また一年間楽しくなりそうですね】
　そう思いながら、月に近づき、書いたスケッチブックを見せるのだった。
　月が今思い浮べたばかりの笑顔で。
「小淋さんがルームメイトになるんですね」
　自分が必要と思った時のみしゃべるだけの無口な月は、感情を表に現さなかった。
　けれど言葉に出さなくても小淋の喜んでいる様子は伝わってきて、内心安堵している自分に少し驚いた。

　二人は、共に住む部屋に移動した。
「改めまして一年間、よろしくお願いします」
　月がぺこりと頭を下げる。小淋も笑顔で頭を下げ返した。
『片付けが終わったら寮を案内しますね』
　と、これからのことを話しながら二人は荷物を開き、片づけを始めたが。
【……なんだか荷物を下ろす際に、月さんの視線を感じるような……？】　
　これまで様々な修羅場を潜り抜けてきた月。
　多少のことでは動じないはずのその月が、戦慄していた。
　横目に見た、小淋の荷物の多さ。ぬいぐるみやリボン、可愛い服といった女の子らしい私物が次々と出てくることに……。
（これが噂の女子力の差というものでしょうか）
　月の私物といえば着替えと本とあまり明かせない小道具くらい……大掛かりなものや物騒なものは基本的に義姉に預かってもらっているのだが。
　小淋は小淋で思っていた。
【それにしても月さんは随分と荷物が少ないですね、最小限のもので済ませられてる感じです。私の荷物が少し多すぎるせいもあるのでしょうか……】
　ぬいぐるみを出しながら小淋は考える。
【共有の部屋ですし、月さん以上に部屋のスペースを取ってしまわないようにしないと】
　しかしこの荷物の量の差では、なかなか難しいかもしれなかった。
　可愛らしいぬいぐるみを横目で見ながら、月がつぶやくように言う。
「やはりぬいぐるみとか増やすべきなのでしょうか……その、女の子としては可愛い、とかそういったものに気を遣うべきとは思うのですが……いかがですか？」
【女の子としての気遣い……ですか？】
　考えてもいなかった質問に、小淋は首を傾げ少し考えて、ペンを走らせた。
『無理にそんな風に気遣う必要はありませんよ』
「……そうですか？」
（やはり私に可愛いものなど似合わないでしょうか）
　月がそう考えたとき、小淋は続きの文を見せた。
『月さんが可愛いと思えるものがあれば、それが一番なのですから』
　そしてにっこりと微笑んだ。
【少しだけ月さんの可愛らしい部分を垣間見たような気がします】
　そんなふうに思いながら。
「可愛いと思えるもの、ですか……」
　今までそんなふうに物事を見たことがなかったかもしれない。
（私でもそんなふうに思えるでしょうか）
　二人の新しい生活は、こうして始まったのだった。