文（ふみ）書かばや｜リアクション

文（ふみ）書かばや

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　和紙独特の手触りと質感を尊重するように無罫線の便箋。
　ごくごく淡い花びら散りばめて、右上の隅には枝付きの桜の花模様。まるで着物に施される相良縫（さがらぬい）のように、指で触れるとぷっくら微かに盛り上がっている。
　テーブルに広げたそれをもう一度じっくり見つめてから、椿美咲紀はニッコリと満足そうにペンを取った。
　とても春らしいレターセットを一目惚れで衝動買い。手に入れたからには、使って見たくなるのが人の性（さが）。
　誰に送るか、少しも迷う様子なく美咲紀は宛名をすらすら書いた。　
　――　いつもお世話になっているシュー君へ。感謝の気持ちをカタチにするのです♪
　口頭やメールとは一味違った、手紙ならではの伝え方を美咲紀はもう決めている。

「くどくならないよう、文面は短めです……となると、ペンはこれにしましょう」

　畳まれた手紙を広げたらその瞳にくっきり飛び込むような、少し太めのペン先をした万年筆を手に取って。
　ブルーインクの字が、花びら模様の上を滑っていった。
　あっという間に手紙をしたため終えれば、まだまだこれからです！　とばかりに手を伸ばす。
　桜の形をした和紙に包まれたお香、文香をきちんと折った手紙の中へと挟み込む。
　手紙に花の香りが沁み込むように。たおやかな季節の香りが、お相手に届くように。

「そうそうっ、忘れちゃいけません。本好きなシュー君のために」

　幻想的な模様がお揃いの封筒へ手紙と文香に続いて入れたのは、澄んだ青空と陽光に照らされた雲とが混じり合うのを背景とした、桜の花が美しく描かれた和風の栞。
　満足そうに微笑んでから、最後の仕上げと取り出したるは小さなファイル。
　花好きの美咲紀が、タイミングを見ては買い集めている郵便局の記念切手たちが、綺麗に収納されている。
　一瞬、『この間のベンガル猫耳のシュー君、可愛かったですねぇ』なんて、思わず花に紛れてちゃっかり買っている猫柄切手に手が伸びそうになるも……『ハッ。切手選びもトータルコーディネイト的に重要なのです！』と踏みとどまって。
　改めて、桜の花の形をした可憐な切手を封筒へペタリ。

「完成！　なのですっ」

　万歳と喜びを表してから、早く手元に届いて欲しい思いが体を動かす。
　出来上がった手紙を持って、美咲紀はもう靴を履いてポストへ一直線に駆けていくのだった。