ぼくらのフツウをまもるため｜リアクション

ぼくらのフツウをまもるため

【凝縮された神魂】

　そんなこんなで、骨削瓢はもうピクリとも動かなくなっていた。
「……人間の身体では耐えられないぐらい凄い神魂が凝縮されてるってことだよね？」
　恵御納夏朝は、目の前の現象をそのように解釈した。
　瓢が倒れた直接の原因は必ずしもそうではなかったが、その解釈はおおよそ当たっていた。
「ということは、あのぷくーっとしたのを破っても、みんなの魂は返ってこないですにゃ？」
　ミーツェ・Ｍ・フェリスが猫の頭を小さく傾げる。
「やっぱりテオに訊くのが一番かなぁ。でも、今、ただの猫になってるんだっけぇ？」
　壬生由貴奈も、眉根を寄せて、首を捻る。
　などと言っている間に、クローネが大量のカラスを従えてやってくる姿が夏朝の目に映った。
「……とにかくなんとかしなくちゃ！」
　夏朝は、クローネと烏の群れに向けて、シールを連射した。
　シールがヒットしたカラスをひたすら重くしてカラスミルの壁を破壊していく。
「みんなの魂を返せですにゃー！」
　ミーツェが爪を引き出して、クローネに突っ込む。
「ありったけの硬貨と工具を、つぎ込むよぉ～」
　由貴奈がろっこんを駆使して、硬貨と工具による壁を展開する。
「ああ、もう！　これからってときに邪魔ねぇ～！」
　クローネが苛立った声をあげる。
　そのときクローネの背後に迫る一匹のコウモリの姿があった。
　先程から虎視眈々と、クローネの隙を覗っていた常闇虚だった。
（……本当は、ミルクを飲んだ直後を狙うつもりだったけれど。さすがにああなるのはごめんね）
　ちら、と虚が見たのは、いまだピクリとも動かない瓢の姿だった。
（今の内にそっと血を吸って、驚いた顔を拝見してから帰りましょう）
　と、虚が思ったそのときだった。
「ちょっとぉ、誰かほかに私の可愛い僕ちゃんはいないのぉ～？」
「私にお任せください、クローネ様！」
　クローネの声に応じて、どこからともなく毒島虹子の声が響いた。
　次の瞬間、ぶしゅーと音がして、夏朝、ミーツェ、由貴奈の周囲だけが視界と意識を奪う煙幕に覆われた。
（……しまった）
　はからずも、その煙幕の中に虚も巻き込まれてしまう。虚のみならずろっこんを使用した虹子自身も。
「あら？　ラッキィ♪」
　煙幕の向こうで、クローネのほくそ笑む声がする。
「……て、敵が見えませんにゃ！？」
　ミーツェの声が困惑に揺れる。
　と、次の瞬間、ズズズっと何か液体をすするような音がカラス山の頂に響く。
「こ、この音って……」
　それは、どこか大蛇が人を丸のみするときに発するような底冷えするような恐ろしい音だった。
　煙幕のせいで、見えないが、クローネが神魂ミルクを飲んでいるというよりも、むしろクローネが神魂ミルクに飲まれているような、そんな感じのする音だった。
　そして、
「あらぁ、クローネ様、素敵ぃ♪」
　やがて、晴れた煙幕の向こう側から――

「おーっほっほっほっ♪　これよ、これ♪　ついに私が欲しかった力を手に入れたわぁ～♪」

　全身に黒く禍々しい炎をまとった巨大なカラスへと成長していくクローネの姿が見て取れるようになったとき、煙幕に包まれた五人（夏朝、ミーツェ、虹子、由貴奈、虚）は一様にその意識を失っていた。