【お花見】しづ心なく花の散るらむ｜リアクション

【お花見】しづ心なく花の散るらむ

　彼女はギターケースを両手で抱えている。背負うのではなく。
　名はシャロン・ナイトプレッジ、どうしてもケースを担ぐのに慣れていない。
　この時期の日本って本当に綺麗なのね、と桜を見上げながらシャロンは歩いていた。徒歩を選んで正解だったと思う。
　どこもかしこも一面の桜だ。
　淡い色使い、可憐なその姿、ちらほらと降る切なさ、そのすべてが好みにあう。
　そうえば初恋の男の子も、桜の話をしてくれたっけ……ハートに似た形の花びらがとっても可愛い花が咲くんだって。
　いつの間にかシャロンは、甘い思い出も呼び覚まされている。その記憶を、
　――彼にはまだ会えないけれど、いつか教えてもらった音楽の楽しさ、あの日の感動を届けに行く為にも頑張らなくちゃ。
　こんな風に、ポジティブな考えに変換できるのがシャロンの天性であり、強みだ。
　でもアイドルとしてステージを踏むに当たって、少々困っていることもあるのは事実だった。
　芸名を考えるよう、シャロンは事務所の社長から言われているのだ。『シャロン･ナイトプレッジ』という本名が身バレすれば、家柄的に問題となるのは必定だからだ。
　とはいえそう簡単に芸名が思いつくわけでもないし――。
「あれ？」
　気がつくとシャロンは、人混みのなかにいた。大きな海浜公園のようだ。
　フィンさん、ことフィンレイ･ランカスターが言っていた場所はここだろうか。
　すぐにステージも見つけた。ここからは遠いが、音楽が聞こえる。誰か歌っているらしい。
　行ってみよう！

　だが、いくらもいかぬうちに、シャロンは道に迷ってしまった。
　正確に言うと迷っているわけではなくて、ステージは見えている。
　だが、ステージまでの場所にはいくつも柵があったり通路が入り組んでいたりして、なかなかたどり着けないのだ。それに加えて人が多くて、あっという間にギターを抱えたまま立ち往生してしまった。
「ステージ出るの？」
　話しかけられた。
　自分と同じように、ギターケースを持った女の子に。くりっとした綺麗な目に小さい目鼻立ち、肌も綺麗で可愛い。どうやら出演者のようだ。
「うん、でもなかなかたどり着けなくて……」
　とまで言ったところで、シャロンは相手が、少女ではなく少年かもしれないと気がついた。ポロシャツにジーンズ、だがその胸部に膨らみがない。声も、中性的だが男性よりだと思われた。
　だが可愛いのは間違いないので、細身の女性という可能性も捨てきれなかった。まあ、それは置いておくとして、
「良かったら道を教えてくれない？」
　すると彼（彼女？）は、「いいよ」と言った。
「僕も出る予定なんだ。一緒に行こうよ。ええと……」
「シャロン、って言うの」
　シャロンは自分から名乗った。ただ、家柄的にどうこうという社長の言葉を思い出し、苗字は言わないでおく。
「僕は、天之川麗仁」