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- 00月00日生 00歳
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【お花見】しづ心なく花の散るらむ
寝子島街道の桜並木を、歩きながら豊田 華露蘿は思い悩む。
誰かに聞いてもらいたい――そんな愚痴が少々あるのだ。
けれどもしばらく歩いたところで、運悪くか良くなのか見知った顔はなくて、だからといって気楽に電話できそうな相手も思いつかず、行けば必ず知り合いがいるだろう『プロムナード』に顔を出すという手もあるものの、あいにくとまだ昼間で開店前だと思い至る。そもそも日曜は店も休みだったはずだ。
だから桜の樹を見上げて、心の中で華露蘿は話しかける。
この前、勤め先の店長と派手にやりあってねえ……、と。
真実のことだ、自分同様文具愛にあふれた店長と、華露蘿は口論になってしまった。
原因は、やはり文具のことだった。
僕は四星の色鉛筆の桜色が一番だと断言できるのに、店長は他社の色鉛筆の方が再現度が高いって譲らないんだ！
口角泡を飛ばすも双方平行線のまま、とうとう議論に決着はつかなかった。
もやもやする。
桜に聞いてもらいたい。けれども桜はこたえてくれない。
たとえばあの泰葉であったら、黙って微笑んで聞いてくれて「よかったら見せて、その四星の色鉛筆」と言ってくれただろうに。
見せて……か。そうだ。実地検証が一番だ。
というわけで華露蘿は急きょいまここに、話題に上った色鉛筆やクレヨンを用意してきているのだった。
実際に桜の木の下で色比べ、という寸法だ。
しかし桜の下で色鉛筆をならべてうなっていたら、ちょっとした不審者になりそうなので、華露蘿はオープンカフェに席を求めた。桜を観賞し、桜と色鉛筆を比べるに絶好のロケーションとして。
「おねーさん、ホットコーヒーをブラックでね」
右手に四星色鉛筆を握りしめたまま、オーダーしている自分に華露蘿は気がついた。
まあいいや、芸術活動中だと思ってもらおう。実際、芸術的な活動であることに違いはないのだし。
桜を臨みながら華露蘿は画用紙を広げ、色鉛筆を走らせた。
絵の力量としてはまあ人並みだけど――と華露蘿は自己評価を下しているが、紙の上には素敵な桜のデッサンが生まれていた。
「いい景色だと筆が走るねえ……あら、ビジネスマンも走ってる」
日曜だというのに上下スーツのネクタイ青年が、マラソンと競歩の中間くらいの足取りで並木道を駅の方角へ向かっていた。
って、あのお兄さん、鼻の頭に桜の花びら乗ってるよ！？
それくらい余裕がないのだろう。気がついて華露蘿は腰を浮かせた。
教えてあげたほうがいいのかな、と思ったときにはもう、青年は華露蘿の目の前を過ぎて背中だけを見せている。
仕方ない。
華露蘿は座り直し、ふたたび色鉛筆を走らせた。
思った通りだ、桜の質感という意味なら、四星製が断トツだった。他社のも試みてみたが、どうにも人工的な色あいになる。明日、店長にこの絵とともに提出するとしよう。
結果がわかればそれで終了というのもつまらない。
「おねーさん、ホットサンド追加で！」
ウェイトレスを呼ぶと手早く注文し、よしよし、とうなずく。
これでエネルギー補給は大丈夫だろう。ここのホットサンドはツナがボリューミーで美味いという評判だ。ツナといえば、色鉛筆でこの色合いを再現したいと思った場合使うべきなのは淡いオレンジかクリーム色か――。
いけない、デッサンを再開しなくては。
ホットサンドを平らげて、なおも描く華露蘿の正面の席に、学生とおぼしきカップルが腰を下ろした。
まだつきあい始めて日が浅いのか、互いに遠慮しながらも楽しげに会話を交わしている様子だ。
いやあ、春だねえ。
そんなことを思う。
甘党じゃないおねーさんからしたら、甘々で胸焼けしそうだねえ。
なんとなく手を止め、近所のオバサンみたいな心境で彼と彼女を眺めていた華露蘿だったが、間もなくして、むむ、と眉をしかめていた。
――って、彼氏さん！
彼氏の視線には既視感があった。『プロムナード』で働いたとき、何度か目撃した種類の視線だ。
華露蘿にはわかる。はっきりとわかる。
彼氏さん……さっきから彼女の谷間ばっかり見てるし！
彼のほうの視線は、食い入るようにその場所に集中している。ところが彼女たるや気づく様子もないのだ。
こればかりは教えてあげるわけにもいかず、ただ華露蘿は悶々としながら、指で色鉛筆をくるくると回すほかなかった。
「おっと」
思わず声に出てしまった。
このままじゃ花見どころかマンウォッチングになっちゃうよ！
こんなところを知り合いに見られたら大変だ。うん、いまはデッサンに集中しよう。
しっかり完成したら華露蘿は、『四星の桜色こそ最高！』というコメントも画用紙に書くつもりである。
誰かに聞いてもらいたい――そんな愚痴が少々あるのだ。
けれどもしばらく歩いたところで、運悪くか良くなのか見知った顔はなくて、だからといって気楽に電話できそうな相手も思いつかず、行けば必ず知り合いがいるだろう『プロムナード』に顔を出すという手もあるものの、あいにくとまだ昼間で開店前だと思い至る。そもそも日曜は店も休みだったはずだ。
だから桜の樹を見上げて、心の中で華露蘿は話しかける。
この前、勤め先の店長と派手にやりあってねえ……、と。
真実のことだ、自分同様文具愛にあふれた店長と、華露蘿は口論になってしまった。
原因は、やはり文具のことだった。
僕は四星の色鉛筆の桜色が一番だと断言できるのに、店長は他社の色鉛筆の方が再現度が高いって譲らないんだ！
口角泡を飛ばすも双方平行線のまま、とうとう議論に決着はつかなかった。
もやもやする。
桜に聞いてもらいたい。けれども桜はこたえてくれない。
たとえばあの泰葉であったら、黙って微笑んで聞いてくれて「よかったら見せて、その四星の色鉛筆」と言ってくれただろうに。
見せて……か。そうだ。実地検証が一番だ。
というわけで華露蘿は急きょいまここに、話題に上った色鉛筆やクレヨンを用意してきているのだった。
実際に桜の木の下で色比べ、という寸法だ。
しかし桜の下で色鉛筆をならべてうなっていたら、ちょっとした不審者になりそうなので、華露蘿はオープンカフェに席を求めた。桜を観賞し、桜と色鉛筆を比べるに絶好のロケーションとして。
「おねーさん、ホットコーヒーをブラックでね」
右手に四星色鉛筆を握りしめたまま、オーダーしている自分に華露蘿は気がついた。
まあいいや、芸術活動中だと思ってもらおう。実際、芸術的な活動であることに違いはないのだし。
桜を臨みながら華露蘿は画用紙を広げ、色鉛筆を走らせた。
絵の力量としてはまあ人並みだけど――と華露蘿は自己評価を下しているが、紙の上には素敵な桜のデッサンが生まれていた。
「いい景色だと筆が走るねえ……あら、ビジネスマンも走ってる」
日曜だというのに上下スーツのネクタイ青年が、マラソンと競歩の中間くらいの足取りで並木道を駅の方角へ向かっていた。
って、あのお兄さん、鼻の頭に桜の花びら乗ってるよ！？
それくらい余裕がないのだろう。気がついて華露蘿は腰を浮かせた。
教えてあげたほうがいいのかな、と思ったときにはもう、青年は華露蘿の目の前を過ぎて背中だけを見せている。
仕方ない。
華露蘿は座り直し、ふたたび色鉛筆を走らせた。
思った通りだ、桜の質感という意味なら、四星製が断トツだった。他社のも試みてみたが、どうにも人工的な色あいになる。明日、店長にこの絵とともに提出するとしよう。
結果がわかればそれで終了というのもつまらない。
「おねーさん、ホットサンド追加で！」
ウェイトレスを呼ぶと手早く注文し、よしよし、とうなずく。
これでエネルギー補給は大丈夫だろう。ここのホットサンドはツナがボリューミーで美味いという評判だ。ツナといえば、色鉛筆でこの色合いを再現したいと思った場合使うべきなのは淡いオレンジかクリーム色か――。
いけない、デッサンを再開しなくては。
ホットサンドを平らげて、なおも描く華露蘿の正面の席に、学生とおぼしきカップルが腰を下ろした。
まだつきあい始めて日が浅いのか、互いに遠慮しながらも楽しげに会話を交わしている様子だ。
いやあ、春だねえ。
そんなことを思う。
甘党じゃないおねーさんからしたら、甘々で胸焼けしそうだねえ。
なんとなく手を止め、近所のオバサンみたいな心境で彼と彼女を眺めていた華露蘿だったが、間もなくして、むむ、と眉をしかめていた。
――って、彼氏さん！
彼氏の視線には既視感があった。『プロムナード』で働いたとき、何度か目撃した種類の視線だ。
華露蘿にはわかる。はっきりとわかる。
彼氏さん……さっきから彼女の谷間ばっかり見てるし！
彼のほうの視線は、食い入るようにその場所に集中している。ところが彼女たるや気づく様子もないのだ。
こればかりは教えてあげるわけにもいかず、ただ華露蘿は悶々としながら、指で色鉛筆をくるくると回すほかなかった。
「おっと」
思わず声に出てしまった。
このままじゃ花見どころかマンウォッチングになっちゃうよ！
こんなところを知り合いに見られたら大変だ。うん、いまはデッサンに集中しよう。
しっかり完成したら華露蘿は、『四星の桜色こそ最高！』というコメントも画用紙に書くつもりである。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年05月20日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年05月27日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年05月27日 11時00分
