【お花見】しづ心なく花の散るらむ｜リアクション

【お花見】しづ心なく花の散るらむ

　はしばみ色した服部剛の瞳に喜びが、ぴちぴちと炭酸飲料のように弾けている。
　花咲く日曜日の昼下がり、何かが起こらないか、何も起こらないならいっそ自分で起こそうか――とうずうずしながら歩いていた剛は、ついにそのときが来たのだと理解していた。

「ええ所（とこ）で会うたなぁ、楢木！」
　袖をまくった両腕を剛は、ぽんと楢木春彦の両肩に乗せた。
「土日に見頃だという桜。せっかくやし誰かと見に行きたい！　と思うてたとこや！」
　歩いていたところばったり出くわした剛に、こう言われたのだから春彦はいささか面くらいつつもこう返す。

「ってことは花見っすか！？」
「せや！　どうせなら、もっと人誘うてみんなで行かんか？」
　いま剛が感じているであろう胸の高鳴り、それが伝播したように春彦の語気も高まっていく。
「イイっすね、花見！　みんなでワイワイすんの楽しそーっす！」
「よっしゃ！　ほなメンバー探しにいくで～！」
　ほどなくして弥逢遊琳、さらにシグレ・ナイトウォーカーが合流した。
「なるほど、京都以外でも桜は桜。では僕は花見弁当の用意でもしようか」
　弥逢遊琳は静かに右手首を返すと、小ぶりの時計の文字盤に目を落とす。

「急げば、夕方までには間に合うかな」
　夕方か、と呟いたシグレは、それなら、と提案した。

「桜川の船上で楽しむのも一興だろう。屋形船は俺が手配しよう」
　わっと場が色めき立った。
「え、ほんまに屋形船でするん？」
「屋形船って乗ったことねーっす」
　剛と春彦が声を上げると、それに加えて――といくらか勿体ぶってシグレは言い添える。
「ついでにお遊びで、緩いドレスコードを設けないか」
「ドレスコード？」
　と言う遊琳にシグレはうなずいて、
「『和』をテーマに、テーマに沿ったアイテムを一つでも良いから装いに取り入れるんだ」
　おおっ、と春彦は言ったが、今度は声にやや戸惑いが籠もっている。
「和のドレスコードっすか……？　和モノってあんま持ってねぇケドどーすっかな」
「めっちゃ雅やん！」
　と言った剛は、遊琳にくるりと顔を向けている。
「和物ならゆーちゃんが詳しそうやなぁ。あんま持っとらんさかい、借りてええかな？」
　そういうことなら、と遊琳はおっとりと微笑した。
「うちに色々あるから好きに使いなよ。女物も多いけど父さんのとか通い猫に着せてるのがあるから」
「俺は花に関連した日本茶、紅茶、中国茶と何種類かの茶葉と茶器を用意して持っていこう」
　とシグレが言った。
「花見茶をするからには茶菓子も用意したいが、楢木、あてはあるか？」
「茶菓子っすか」
　その言葉を口にするやたちまち、春彦の頭には一人の少年の顔が浮かんだ。
「あ、俺菓子作り上手いヤツ知ってるっす！　そいつにも声掛けてみるっすね！」
「さて、それでは手早く準備に入るとしよう。あまり時間はない」
　ここで思い出したように、シグレは片手を挙げたのである。
「俺のほうにもあと一人、呼びたい人間がいる。声をかけて構わないだろうか」