HOTEL ENCHANTED｜リアクション

HOTEL ENCHANTED

■お料理の主役はどなた？
　人は喰うもの眠るものと申しまして、ちゃぶ台に広げるくらいのご飯と両足伸ばして眠れる布団がありゃあだいたい幸せなんでございます。
　それでも毎日ちゃぶ台いっぱいのご飯と広い布団にありついているとまあ、幸せがなんだか分からなくなってくるのも人情というもんでございまして……。
　ここにおります本居陽毬。
　立てば芍薬座れば牡丹、食べる姿は肉食獣。ご飯にだけは妥協をしない娘さんなんでございます。
「わあっ、美味しそう！　いただきまーす！」
　ある日やってきましたるはホテルエンチャンテッド。キャッシュバックキャンペーン中につきお一人様実質ゼロ円でお泊まりいただけますなんていうもんだから喜び勇んで宿につきましてテーブルいっぱいのご飯を朝もなく夜もなくもりもり平らげたんでございますが、翌朝めざめてあらびっくり。
　夜中の大食いが体重計の針に響いて悲鳴のもと、というわけではないんですな。
　不思議なことに陽毬お嬢さんは食べても食べても太らない恵まれた子なんでございます。ええ太らなかった。太らなかったが……。
「なにこれ！？　からだが、ぺらっぺらになっちゃった！」
　厚さ七ミリの綺麗なお皿になってしまったんでございます。

　料理長ことフライパン先輩が言うには、いらっしゃったお客さんをしっかりもてなすことができれば元に戻れるそうな。
　なるほどそうか。ぽんと膝を打つ代わりにからんと皿の縁を鳴らしまして、美少女あらため美皿陽毬の挑戦がはじまった。
　第一ラウンド。同人誌のネタに困った響タルトお嬢様。
　何日も部屋に籠もって即席モノばかり食べていたせいでどうにも血色がよろしくない。
　血色の良さなら他の追随を許さない陽毬さんでございますから、お肉と野菜をしっかり食べさせなきゃいけないぞと決意を硬く厨房へ入りましたがさあここからが本番。
　タルトお嬢様におかれましては好き嫌いがあっては困る。野菜をさけてお肉だけ食べるなんてことになれば栄養の偏りは必須でございます。
　今までためらいゼロカロリーで食べていたお肉や野菜を前にうんうん唸って考えるわけですな。さりげなくそして美しく、さらには美味しく食べて貰うための最後の技は盛りつけですから、お皿の腕の見せ所というわけでございます。
「こう！　これが一番美味しく見えるはず！」
　がんばりを重ねた盛りつけで、陽毬はワゴンに飛び乗りました。
「けど、こんなに美味しそうな料理が食べられないなんて……うう……」
　泣いちゃだめ、泣いたら味が変わってしまうもの。
　進むワゴン。華やぐ声。
　陽毬の挑戦はまだ始まったばかりでございます。

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