３月の★ハッピーバースデー｜リアクション

３月の★ハッピーバースデー

●１７日

「あれ……もしかして」
　岡野丸美は学校帰りにのんびりと呟いた。
「私、今日誕生日だっけ」

　３月といえば年度末。諸々の１年を上手いこと帳尻合わせなければいけない月。それは学生にも言える事で、丸美も課題の提出などが重なり中々忙しい日々を過ごしていた。
（だから、うっかり忘れてたのよねぇ……）
　てへ、と丸美は頭を掻く。のんきな彼女である。
（えへへ、今日からハイティーンなんだ。なんかカッコイイ響きだよね）
　自分が外国のドラマに出てくるようなちょっとお洒落な女の子になれた気がする。丸美はふふと微笑んだ。
　こんなウキウキする気持ちのまま真っ直ぐ帰るのももったいない。
「そうだ」
　丸美はぽんと手を打った。
「折角だから、自分だけでちょっとお祝いしようかなぁ」
　誰かを誘ってもいいけど、お祝いをねだるみたいになっちゃうのはあんまり良くないし。それに。
「お洒落なハイティーンは、お洒落に誕生日を過ごすんだもんね♪」
　前から気になっていたケーキ屋さんに寄ってみようっと。
　ひらりと制服のスカートを翻し、丸美は軽やかに歩き出した。

＊＊＊＊＊＊＊

「う～ん、どれにしようかなぁ」
　たくさんのケーキが並ぶショーケースを前に、丸美は唇をツンと尖らし真剣に悩んでいた。
　ケーキも焼き菓子もどれもこれも美味しそうだ。丸美は悩んで悩んで、ようやく候補を３つまで絞ったのだが……う～ん、これ以上選べないよ！
　丸美はショーケースの前で百面相。その可愛らしい姿を店員さんがにこにこ眺めているのも気が付いていない。ムムム～ッと眉をひそめていたが、ようやく決心がついたのか、丸美はうんと大きく頷いた。
（―――こうなったら、３つとも食べちゃお！）
　いいよね、たまの誕生日なんだし。知ってる子は誰も見てないし。
　……確かに誕生日はたまにしか来ない。月に何回も来たら大変だ。『たまに』という最強の呪文で、丸美は『ダイエット』という言葉を無効にする。丸美は厳選した３つのケーキを元気に注文した。

　このケーキ屋のいい所は、店内で食べられる所だ。
　丸美はテーブルの上に並べられたティーセットとケーキを、むふふと満足そうに眺めた。
　ポットサービスのティーセット。茶器やケーキ皿は可愛いのにしゅっとお洒落だし、ケーキの方は。
　パクン、と目の前の皿からケーキを一口食べ、ん～っと丸美は頬を押さえた。
　―――とーっても美味しい！　我慢しないで３つ頼んで良かった！

　ほうっと丸美は満足そうに溜息をついた。なんだかほんわり幸せ気分だ。
　紅茶も、美味しいケーキも、それを楽しむ自分も。お洒落で特別で、ちょっと大人になったみたい。
「また来たいな。今度は友達でも誘って……」
　そう呟くと丸美は紅茶をこくりと飲む。そして悪戯っぽく小首を傾げた。
（でもこっそり一人で豪華にやるのもいいよね～。癖になっちゃいそう）
　えへ、と可愛らしく舌を出し、丸美はまたケーキをぱくり。そしてふくふくとした柔らかそうな頬を緩めるのだった。