３月の★ハッピーバースデー｜リアクション

３月の★ハッピーバースデー

●１４日

　麗らかなこの日。メイド喫茶『ねこのて』の前に、興味深そうに立て看板を覗き込む女の子がいた。
「ふむふむ……『３月生まれのご主人様お嬢様、お誕生日おめでとうございます！　是非一言お申し付け下さい』？　……何だか、ちょっと面白そう」
　ボードに白いチョークで綺麗に書き込まれている文字を読み、神薙焔はチャーミングな緑色の瞳をくりんと動かした。
（あたしの誕生日はもう過ぎたけど）
　屈んでいた姿勢を起こし、ふむと焔は思い出す。３月３日が誕生日の焔。ちょうど日本の雛祭りと重なる彼女の誕生日、今年はとても楽しく過ごせたのだ。
　今日はホワイトデー。用意したクッキーも配ったし、ちょっと自分のためにのんびりしてもいいかな……。
　そんな風に考えながら何気なく視線を移した焔の顔がふと止まる。焔は大きく手を振った。
「エレナ先輩！」
「あら、神薙さん」
　あくまでエレガントに剣崎エレナが振り返った。

「私、別に暇じゃないのよ？　今日はホワイトデーでお返しもたくさん貰ったし」
「そういえば先輩キャリーケース持って登校してましたね。あれ全部にですか？　すごいですね」
「え？！　いえ、そ、その………ゴニョゴニョ」
　『ばんり』と名札をつけた上品なメイドさんに案内され、席に着いた２人。飲み物を注文した時に２人とも今月が誕生月だと告げると、メイドさんの『ばんり』……桧垣万里は、
「おめでとうございます、お嬢様方。しばらくお待ち下さいね」
とにっこり笑ってくれた。

「それにしても、先輩は今日がお誕生日なんですね。おめでとうございます」
「あら、ありがとう。焔さんも今月なのね。おめでとう」
　古き良きヨーロッパの香り。焔はかつて住んでいたドイツを少し思い出させる店内の雰囲気に心地よさを感じる。ここに来て良かったと思いながらエレナと会話を楽しんでいると、万里がトレイを持ってやってきた。
「お待たせしました、お嬢様。紅茶と、プチケーキです」
　そう言ってテーブルに並べられたのは、２人分の紅茶が入ったティーポットとカップ、そして小さなマロンケーキとマスカットのケーキだった。
「わぁ、可愛い！」
　自分の瞳と同じ色のマスカットが、宝石のように飾られている。素敵なプチケーキに焔が思わず声を上げると、万里が笑顔で言った。
「お誕生日おめでとうございます。このケーキはサービスです」
「ありがとうございます」
「どうもありがとう」
　焔とエレナがお礼を言うと、万里は丁寧にお辞儀をして戻って行った。

「美味しそうなケーキね。けれど、カロリーが……いや……でも……」
「あたしも誕生日にケーキ食べましたけど、もう１つ頂いちゃおう。プチだし、大丈夫ですよエレナ先輩！　うん！」
「そ、そうよね。大丈夫よね？」
　素敵なケーキと香り高い紅茶に話を弾ませる、楽しそうな２人。すると彼女達のテーブルに、王子様のような気品溢れる執事が近付いてきた。
「お嬢様方、今日はホワイトデーですので、これを……。私からの気持ちです」
　そっとテーブルに置かれたのは、カラフルなマカロン。優雅に一礼をし、彼は去って行った。
「わぁ、すごいですね先輩！」
「今の方は……男性かしら……それとも女性？」
　頬を上気させ思わずその姿を探すエレナ。そんな彼女を可愛らしいと思いながら、焔は紅茶をすすり、ニコリと笑った。
「紅茶もとても美味しいですよ、先輩」

　優雅に楽しくお茶を楽しんだ後。焔は美味しかった紅茶の茶葉が欲しくなり、店内にあるお土産用の茶葉を見ながら、万里に上手な淹れ方を教えて貰う。エレナはエレナで先程のイケメン執事を探し出し、頬を染めて楽しくお喋り。
　メイド喫茶『ねこのて』のおもてなしを、十分堪能した２人だった。