【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

二年二組
　大天使天吏は他の生徒に紛れて淡々とホームルームを受けていた。内心の態度は一切、見せない。周囲が笑えば控え目に合わせて、静かな時は素の表情で話を聞いている振りに専念した。
　――これがフツウを体現した結果なのね。伊藤先生にはどのように見えているのかしらね。
　担任の伊東大志は最後のホームルームに力を入れていた。話し方に工夫を凝らす。見た目は同じで水色のワイシャツにグレーの上下のスーツを着ていた。熱弁のせいなのか。銀縁眼鏡のレンズが微かに曇っている。七三に分けた部分の境目がぼんやりとして見えた。
　――好きなことに熱中する姿を眺めるのは嫌いではないわ。
　天吏は自然な笑みを浮かべた。脳裏に雑誌に載っていたコラムの内容が蘇る。
「それでは通知表を渡します。名前を呼ばれた順に取りにきてください」
　担任の声に従って生徒は通知表を受け取る。派手に嘆く者もいれば、小さくガッツポーズを取る者もいた。
「大天使さん、通知表を取りにきてください」
「わかりました」
　落ち着き払った中に少しの緊張感を演出して赴く。
「素晴らしい成績です。この調子で勉学に励んでください」
「ありがとうございます」
　僅かな恥じらいを見せて天吏は卒なく席に戻る。
　隣にいた女子が身体を寄せてきた。
「大天使さん、どうだった？　先生の言い方だと、相当に良かったんでしょ？」
「どうかしら」
　天吏は通知表を僅かに開いて、残念そうに頭を横に振った。
「大天使さんでも苦手な教科ってあるんだね」
「当然、あるわ。私も人間だからね」
　女子は納得した様子で姿勢を戻した。
　今一度、天吏は自身の通知表を開いた。全ての教科に五が付いていた。力なく閉じて両手を乗せる。
　――人間らしい努力を見せながら無理なく成績を上げる。
　先生の教えの賜物で、全て上手くいってるわ。
　右目の奥に鋭利な光を隠しつつ、天吏は人間らしく微笑んだ。