現実拡張アレスター｜リアクション

現実拡張アレスター

■スタジアムは嵐の前の
　ＳＮＳでドロボウチームに早速の逮捕者が出たことを知った椎井莉鳥。
　彼女はアウトレット周辺で身を隠しながら移動していた。
「この人は確か、寝子高へショートカットしてた人よね。あの位置にケイサツを複数置いておくとは思えないから、厄介なのが待ち構えてるってことかしら……」
　莉鳥の狙いはスタジアムのポータルだ。
　しかしこの場所は、駅前の次にケイサツが集まりやすい場所でもあった。
　Ｊ７寝子中グラウンドのケイサツポータル。
　Ｌ８寝子電スタジアムポータル。
　この間にあるＫ７～８ラインはケイサツが移動することもあってかつねにブロックが赤く表示されている。ブロック内のどこにいるかは分からないので、わざわざ危険地帯に飛び込むマネをすることはない。
　で、当の莉鳥はどこにいるのかといえば……。
「対人戦っていうのは、そう思い通りにはいかないものよ」
　正規ルートから大きく迂回することになるＫ１０アウトレットモール東側である。
　ここへケイサツがやってくるには計四箇所の橋を渡らざるを得ないうえに、ブロック移動だけでどの橋を渡ったかバレバレなのだ。
　ゆえに莉鳥を捕まえるには最低でも二人。できれば四人以上のケイサツを割かねばならない。駅前に大半のケイサツ配置している今、莉鳥はある意味安全地帯にいた。
　そんな彼女がいま最も警戒しているのが……Ｋ９～１０、Ｌ９～１０の四ブロックをランダムにうろうろしている誰かである。
　愚直にこっちを追い込もうとしているようだが、それが妙に自信ありげで不気味なのだ。
「この『お巡りさん』は誰かしら。体力自慢とのチェイスにだけは持ち込みたくないわね」

　さて、一旦高い目線から『お巡りさん』を見てみよう。
「なーんでこんなところをうろうろしてんだ？　スタジアム狙いなら素直に突っ込んでくればいいのに。ま、そうなりゃあたしがとっ捕まえてやるんだけどな！」
　道をてくてくと歩きながらマップを眺めるレナ・ランベール。
　頭をフル回転させている莉鳥にとっての天敵ともいうべき、『とりあえず突っ込んでみる派』である。
　このタイプは予想もしない手を打つので、相手の作戦をしばしば崩壊させることでおなじみだ。
　レナはレナなりに、とりあえず相手をマーキングしちまえばあとは体力勝負ができんだろとばかりに相手のいるブロックへ素直に近づこうとしていた。
　相手は逃げるでもなく攻撃するでもなく、こちらからぐるぐると逃げている。
　これだけなら隙をみてぴゃーっと走り抜ければいいじゃんと思えてくるが、レナの恐ろしいところはこれだけぐるぐる歩き回っているにもかかわらず全くペースが衰えていないというところである。
「体力には自信あるからな。相手がぶっ込んでくれりゃあむしろこっちのもんだ」
　かくして、『攻撃を待つ強大なレナ』と『ミスを待つ狡猾な莉鳥』による見えない戦いが繰り広げられていた。