……何かがいる！《２》｜リアクション

……何かがいる！《２》

　光をくぐって出た屋上には、藍色の空が広がっていた。
　月は西へ大きく傾き、星のまたたきは遠ざかり、東の空はかすかに白っぽくなっている。夜明けまであと少しだ。
　こんなにも時間が経過していたとは。
　驚いたが、あかね色の空でないことに、全員がほっとした。
　だがまだうかうかしていられない。小学校から出なくては。
「こっちだよだよっ」
　呼んだのは玲音だった。しがみついていた金網から、下の木を指さす。
「あの木に飛び移れないかなっ」
　左右は眉をひそめた。あまりに危険すぎるが、ほかに方法はないようだ。
「……私が先に行きます。皆さんが無事下りられる方法を探してきますから、待っていてください」
　金網を乗り越えて、端に立った。まったく自殺行為だ。
「それでもやるしかありませんわ……」
　覚悟を決めて飛んだが、掴んだ枝はあっさりと折れた。
「きゃあああっ」
　木の枝を折りながら落下した左右は、だれかにぶつかって止まる。
「まったく、ほかにも無茶しぃな美人さんがおったとはなぁ」
　言葉とは裏腹に感心したような口ぶりで、知らない男が笑いながら左右を覗き込んでいた。彼が受け止めてくれたようだ。
「……もしかして華徳井さん、ですの？」
「もしかせんでもそうや。
　心配せんでもええで。今ほかの３人がロープか何か使えるもんはないか、体育倉庫見に行っとる」
「……鍵がかかっているんじゃありません？」
「あー、せやな」
「私が参りますわ」
　友幸の胸を押しやって、地面に足をつける。落下のショックでまだ足が震えていたが、子どもたちを安全な場所へ移すまで、自分のことは後回しだ。
　左右は友幸に会釈で礼をすると、勝手知ったる体育倉庫へ向かって早足で歩いた。

「――空蝉の世は常なきためし……八十の隈路を遙けき幽冥に入り坐しし……」
　木霊をあわれむ者たちの意見を汲んだ友幸の、鎮魂の祝詞（のりと）がかすかに風に乗って聞こえてくるなか、瑠樹は孝明や玲音と一緒に教えてもらった桜の下に立ち、桜の木に向かってろっこんゆるゆる和みと恩恵の輪を使った。
　少しでも、慰めになるように。
「ボクさ、思うんだ」
　並んで、同じように桜を見ていた玲音がつぶやく。
「すっごく怖かったけど、でもこの桜さん、きっとボクたちが大好きで、ボクたちと仲良くしたいって思ってたんだよだよ」
「……きっとそうだよぉ」
　うん、とうなずいて、顔を上げる。
　わずかについていた桜のつぼみが、開花のときを待ちわびるように、ほんのり桃色に色づいていた。
　きっとこれが最後の開花になるだろう。残された寿命はもうほとんどないと、友幸は言っていた。
　絶対忘れない。つぼみが開く、その１つ１つを見落とすことなく、すべて覚えておこうと思った。

『……何かがいる！《２》　了』

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あとがき

担当マスター：寺岡志乃
ファンレターはマスターページから！

こんにちは、またははじめまして、寺岡といいます。

当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。
ガイド公開時、次回へ続く、という展開も想定していたのですが、いただきましたアクションでとても良いアクションが多かったため、今回で無事完結することができました。
結果、だれも大けがを負ったりすることなく、無事脱出となっています。

あのあと皆さんは教師や用務員さんが動き出す前に帰宅しており、学校では特に騒ぎにはなっていません。
行方不明だった子どもたちが戻ったのですからそのことについては多少騒ぎにはなりましたが、無事だったことからそれも深刻な騒ぎにはならずにすみました。
世は事もなし、です。

友幸は、桜を封じたあと本土のほうへ戻っていますが、あの空間から無事戻ってきた皆さんに、多少興味を抱いているようです。
もしかしたら再び寝子島へやってくるかもしれません。
しかしそれはまだ先の話。

３月下旬で春休みに入ったことですから、雑貨店『memoria』の話のほうも進めたいと思います。
こちらのシリーズも、よかったらぜひご参加いただけたらと思います。

それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
引き続き次回もお会いできたらとてもうれしいです。
もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいな、と思います。

それでは。また。

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