夜半を超えて。
さらに数名の行方不明者が出たことに寝子島の人々が騒然となるまでまだ数時間の猶予がある丑三つ時。
寝子島小学校の渡り廊下に木霊たちが集合していました。
現実世界の空と違い、窓から見える空は常に美しいあかね色で、ひらひらと桜の花びらが風に舞っています。
『ゆうくん、大丈夫?』
おかっぱの少女がほおを腫らした少年に気遣いの手を伸ばします。
『殴られたのね。お口のなか、切れてない?』
『……うん。だいじょぶ……。ありがと、みよちゃん』
『だからそんなことしてる場合じゃないんだってば!』
いらいらと叫んだのはもんぺセーラー服の少女でした。突然の大声にびくっとなったふたりを横目に、ふんと鼻を鳴らします。
『まだいっぱい隠れてたのよ? 早く見つけてなんとかしないと、わたしたち、いつまでたってもここから出られないんだから! それでもいいの?』
少女の強い言葉に、みよとゆうはそろそろと互いの視線を合わせました。
もちろんそんなこと、ふたりもいやです。
『あんたは? かずちゃん』
『……いや、だけど……。でもかなちゃん、あいつらすばしっこくて、すぐどっか隠れちゃうんだもん……あたし、足遅いし……』
うつむいて、もじもじしているかずこに、みよが『あたしもー』と同意することで慰めようとするのを見て、かながついに癇癪を起こしました。
『じゃあひとりでやらないで、ふたりとか、みんなでやればいいでしょ! 足をねらって、動けなくして、泣かせて、それでほかのもおびき寄せて、やっちゃうの!』
『わあ。かなちゃんかしこーい』
仲間のうちでは一番体が小さく、幼いゆうが、感心した声で言いました。全員から尊敬の目で注目されて、かなも溜飲を下げます。
『いい? いつまたあいつが現れるか分かんないんだから、ぐずぐずなんかしてられないのよ。早くここから出なくちゃ。あんたたちだって、おうちに帰りたいでしょ?』
『うん……ぼく、がんばるよ!』
『あたしもがんばる、かなちゃん!』
『みんなでおうちに帰ろうねっ』
そのためにも今度は絶対失敗しない――子どもたちは誓いました。
そしてそれから間もなくして。
恐怖に染まった少女の悲鳴が、校舎じゅうに響き渡ったのでした。
※ ※ ※
そのころ。現実世界の寝子島小の前の道に、1台のタクシーが止まりました。
「いやぁ無理聞いてくれてありがとな。一刻もはよ来たかったき、助かったわ。
あ、帰りは待たんでええよ。いつなるか分からんし、電車でもつこて戻るわ」
運転手ににっこり笑ってお礼を言い、支払いをすませると、Uターンして内地へ戻って行くタクシーを見送ってから、青年は壁の向こうの校舎を見上げました。
「ここが例の樹木子が植樹されたっちゅうガッコか。やーっと見つけたわ。
ここでも起きとるようやし、これ以上犠牲出る前にとっとと祓うてしまわなな」
青年はジャンパーのポケットから取り出した小さな試験管のゴム蓋を抜きました。すると中からふわりとホタルのような光が出て、旋回を始めます。
「ほなチィちゃん、頼むで。おれ、妖気探知はからきしやから」
光はふよふよ漂うと、青年の言葉を理解したようにふらふら飛んで行きます。
「掛けまくも畏き伊邪那岐大神、祓戸の大神。諸々禍事罪、穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと申す事、聞こし食せ……」
ぶつぶつと何事かをつぶやきつつ、青年は光について歩き出しました。
まっすぐ、寝子島小校門へ向かって……。
こんにちは。またははじめまして。寺岡志乃といいます。
長らくお待たせすることになってしまい、申し訳ありません。今回は前作から続きのシナリオになります。今回で完結を予定していますが、いただくアクションによっては続くことになるかもしれません。
また、今回からのご参加も歓迎いたします。
●目的
閉ざされた空間の小学校から脱出すること・救出すること
●小学校の外の状況
数日前から何人か帰宅しない子どもたちがいるということで、ちょっとした騒ぎになっています。
必ずしも学校が疑われているわけではありません。帰宅途中の誘拐なども視野に入れて捜索されているようです。
子どもたちは学校内に囚われているのですが、別空間にいて、ほかの人たちには見えないし声も聞こえません。
●小学校の中の状況
囚われた子どもたちは、全員【何か】を繰り返していました。
しかし前作で外部から入り込んだ者たちが大勢現れた結果、その調和が今は少し乱れています。
チャイムが鳴り出すとすぐに忘れてしまい、鳴りやむとまた最初の場所に戻って同じことを繰り返すのは同じで、いつ鳴り出すかも分からない状態であることは変わりません。
※これはNPCの小学6年生限定で、自分から入った人間、つまり前回のPCたちはその心配はありません。
廊下や階段、トイレといった教室外には木の化け物【木霊】がうろついています。
異世界の1階の廊下や教室の窓、昇降口は閉じていてガラスも破壊できません。2階以上の開いている窓もそう見えるだけで出ることはできません。ただし、入ることはできます。
●化物について
元は人間だったモノです。数十年この空間で過ごしたためか、狂った思考をしています。狂ったためにそうなったのかもしれません。
自分以外の生きているものを殺せば外に出られると妄信していて、見かけると殺しています。もちろんただの思い込みです。
だんだんと体が変化しており、若いモノは体の一部ですんでいますが、古いモノになるほど体が木になっています。
リアクションでは便宜的に【木霊(コダマ)】と呼びます。
木になった部分を使ったり、カッターといった文房具を使って攻撃してきます。
木霊同士は互いの姿が元の人間に見えています。また、言葉も通じています。
今回は連携した動きをしようと努めますが、もともと単独行動をしていた上、子どもなので、展開次第ではいつまでもそうしているとは限らないでしょう。
●青年について
華徳井友幸(かでいともやす)と名乗ります。本当の名前かは不明。外見年齢20歳前半。内地からやって来ました。試験管で白狐(3本尾)を飼っていて、使役しています。
明るく、人好きのする笑顔と屈託のないおしゃべりで一見つきあいやすい性格のように思えますが、仕事に関してはシビアな面があります。
祓い屋をしており、内地のとある廃校から植樹された桜の木を探してやってきました。ただし彼は前回の廃校のときの失敗で懲りていて、校内へ入る気は一切なく、もうだれも迷い込まないように入り口を封じるだけで、内部にいる人間の救出は考えていません。どうにかする必要があるでしょう。
●スタート時の状態、条件
・内部スタートできるPC
前回内部へ入った者たち。
今回初めて参加する小学生。
※帰宅しようとしたけれど校内に閉じ込められて、教室に隠れていたことになります。
・外部スタートできるPC
前回外部で動いた者たち、および今回初めて参加する者たちです。
中へ入ることもできます。
※ただし前回のように小学生以外のPCは、なぜ夜中の小学校前にいるのか、の理由付けは必要になります。
それでは、皆さんの個性あふれるアクションをお待ちしております。