ねえ、行かないで子どもたち
いつも笑ってくれたでしょう?
わたしが好きって言ってくれたでしょう?
ずっと、ずっと、一緒にいましょう?
わたしと一緒 ずーっと一緒
楽しく笑って過ごしましょう
(……あれ? ぼく、何をしてたんだっけ?)
長田孝明の視界には、社会の教科書を半ば突っ込んだランドセルがありました。
(ああそうか。ぼく、帰るとこだったんだ)
止まっていた手を動かして、教科書を入れたランドセルを背負います。
教室にはだれもおらず、真っ赤に焼けた西日を浴びて、教室にはくっきりと伸びた窓の桟の影がありました。
窓際の机の上には開いた窓から入ったに違いない桜の花びらが、やけにたくさん散っています。
外の下のほうからは、サッカーか野球かドッジボールか。何かをして遊ぶ子どもたちのはしゃいだ声が聞こえてきます。
振り返った孝明は、なにやら既視感に襲われました。
(なんだろう? 見覚えがあるような気がする)
自分の教室なのですから当然といえば当然なのですが……気になり足を止めた孝明の注意を奪うように、帰宅を促すチャイムが鳴ります。
(いけない。帰らなくちゃ。おばさんたちが心配する)
教室をじっと覗き込む影に気づかず、孝明は廊下に出ました。
鳴るチャイムに急かされて、階段へ。そして下の階へ下りていくうちに、ふと、チャイム今何回鳴ったっけ? と思います。
しかしお湯に溶ける砂糖のようにそれはあっという間にさらりと消えて、孝明にはただ「帰らなくちゃ」という思いしか残らなくなるのでした。
帰らなくちゃ 帰らなくちゃ 帰らなくちゃ。
今何階目? 1階はこんなに遠かったっけ?
(どうしてだれもいないのかな? 先生もいないみたいだ)
ふと、廊下のほうから何か重いものを引きずるような音が聞こえてきて、階段を下りるのをやめて覗き込みました。
ですが、廊下には何もありません。どうやら突き当たりを曲がった向こうの渡り廊下からこちらへ向かってきているようです。
(ああ、ぼく以外にもまだ学校のなかに残っている人がいるんだ)
孝明はそう思うと、また階段を下りることに戻りました。
行かなくて正解でした。向こうにいたのは、とても古いセーラー服を着ているという以外は、もはや人とは呼べないほど崩れた元人間だったのです。
左手に赤く染まった『何か』を持ち、右手ではチキチキとカッターの刃を出したり引っ込めたりしています。
「……わたぁし、しぃってるぅわぁ……みぃんな、ころぉせばいぃいのよぅ……わぁたぁしだけぇになったらぁ……こぉこぉからでられぇるぅのよぅ……こぉろしぃてやぁるわぁ……こぉろすわぁ……こぉろす……」
妙な発音で、その生き物はそんなことをつぶやいていました。人の口をしていないのですから当然かもしれません。
うつむき、木の根のようになったとぐろを巻く足で階段へ続く廊下に入ります。
ひきずった『何か』はまるで習字の筆のように廊下に赤い道をつくり……ひらりひらりと舞い込む桜の花びらとともに、コロリと『何か』から玉のようなものが落ちて転がりました。
そんな化け物たちが徘徊していると知らず、孝明はただどこまでも続くような階段を下り、終わりがなく見える長い廊下を歩いて、靴箱のある昇降口へ行こうとしていました。
やがて、チャイムが鳴り止みます。
(……あれ? ぼく、何をしてたんだっけ?)
気づけば孝明の視界には、社会の教科書を半ば突っ込んだランドセルがありました。
(ああそうか。ぼく、帰るとこだったんだ)
止まっていた手を動かして、教科書を入れたランドセルを背負います。
そしてドアへ向かい、振り返った孝明はこう思うのでした。
(なんだろう? 見覚えがあるような気がする)
と……。
こんにちは。またははじめまして。寺岡志乃といいます。
今回のシナリオは、寝子島小学校を舞台にした、ホラーテイストなシナリオです。
続き物となっていまして、今回でこの話は完結しません。
全2~3回を予定。そのつもりでアクションを書いてください。
小学生のPCさんは小学校内に閉じ込められている状態からスタートできます。それ以外のPCさんは、外から入ることができます。ただし、入ることができるPCさんには条件がありますので、そちらを満たされた方のみとなります。
どの条件にも当てはまらないPCさんは、外部で真相究明に動くことができます。ただし、ほぼ手がかりのない状態からですので、かなり難易度が高めです。
●目的
閉ざされた空間の小学校から脱出すること・救出すること
●小学校の外の状況
数日前から何人か帰宅しない子どもたちがいるということで、ちょっとした騒ぎになっています。
必ずしも学校が疑われているわけではありません。帰宅途中の誘拐なども視野に入れて捜索されているようです。
子どもたちは学校内に囚われているのですが、別空間にいて、ほかの人たちには見えないし声も聞こえません。
(もれいびは、あるいは声を聞いたり気配を感じたりはできるかもしれません)
●小学校の中の状況
囚われた子どもたちは、全員【何か】を繰り返しています。それは人によりさまざまです。
教室で遊んでいたり、勉強したり、孝明のように帰宅しようとしたりです。
ふと、何かの拍子にその行為に疑問を持つときはあるものの、チャイムが鳴り出すとすぐに忘れてしまい、鳴りやむとまた最初の場所に戻って同じことを繰り返しています。
廊下や階段、トイレといった教室外には化け物がうろついています。
1階の廊下や教室の窓、昇降口は閉じていてガラスも破壊できません。2階以上の開いている窓もそう見えるだけで出ることはできません。ただし、入ることはできます。
●化物について
元は人間だったモノです。数十年この空間で過ごしたためか、狂った思考をしています。狂ったためにそうなったのかもしれません。
自分以外の生きているものを殺せば外に出られると妄信していて、見かけると殺しています。もちろんただの思い込みです。
だんだんと体が変化しており、若いモノは体の一部ですんでいますが、古いモノになるほど体が木になっています。
リアクションでは便宜的に【木霊(コダマ)】と呼びます。
木になった部分を使ったり、カッターといった文房具を使って攻撃してきます。
●スタート時の状態、条件
・内部スタートできるPC
寝子島小学生PCで、3月上旬現在小6生限定です。
内部からスタートできます。ただし、前述のように【何か】を繰り返しています。きっかけがないと正気に戻れません。
何も思いつかない場合は「だれかの悲鳴を聞いてわれに返った」でもOKです。
化物との戦いでは、校内にあると思われる物は何でも使えます。
別空間にいますので、スマホや職員室の電話等は通じません。
あえて外部スタートを選ばれてもかまいません。
・外部スタートできるPC
1.寝子島小学生PC。
2.もれいび。
3.行方不明PCの友人、親戚、きょうだいといった関係の者は、相手を強く思うことで共鳴して入ることができます。
※ただし、2~3の方は、なぜ小学校にいるのか、の理由付けは必要になります。
サンプルのように、夜の小学校できもだめしのために集まった、等でもOKですので適当に理由をつくってください。
※何かを持ち込むこともできますが、手で持てる物に限られます。そしてなぜそんな物を持っているのかの理由も必要です。
「こんなこともあろうかと火炎瓶持ってました。これで撃退します」等はさすがに不可です。
このどちらにもあてはまらないPCさんでも、外部で真相究明に動くことができます。
もちろん、あてはまるけれどあえて外部で動いてくださってもかまいません。
また、脱出経路が見つかれば今回のシナリオ内でも出られないことはありませんので、内部に入られたPCさんはぜひ脱出のために頑張ってほしいと思います。
それでは、皆さんの個性あふれるアクションをお待ちしております。