＜月華＞秘恋哀華　―裏切られた姫―｜リアクション

＜月華＞秘恋哀華　―裏切られた姫―

「冥晶宮はそのメンバーで行くんだね？」
　桜月がそう問えば、３人が頷く。彼女はそうか、と静かに呟き、ややあって再び口を開いた。しゃらり、と柔らかな布が動く。
「私はこの国の地下書庫を当たろう。白虹が生きていた頃の戦いとか調べたい」
　色素が生まれながらにとても薄く、陽光に弱い彼女としては、陽光を避けたいというのもある。
「私もそこに行こうと思っていたところなのよ。歴史書あたりを調べたいわ」
　そう言ったのは仙藤紫。そして、隣に立ったのは……恵御納夏朝だ。だが、表に出てきているのは交換人格の『夏夜』である。
「調べる時間と機会を得られたのは、僥倖だね。出来る限りのことを調べたいよ」
　夏夜の言葉に、月と紫が頷く。ちらり、と夏夜が目を周囲にめぐらせば、蓮采がにっこり笑っている。夏夜は彼と月華世界の住人達に機会をくれた事を感謝していた。

「では、ミーツェは星幽塔の第十階層にいきますな」
　ミーツェはまだ誰も宣言していない場所を選び、皆の助けになれば、と手を握り締める。そんな少女の横に立った新田亮は今まで閉ざしていた口をはっきりと動かした。
「俺は、神酒の国の人々に白虹の話を聞こうと思う。……こうしてみると雲の国へ向かう人が居ないからちょいと気がかりではあるが……」
　亮が僅かに表情を曇らせながら呟くが、それは致し方ないだろう、と誰もが納得しかけていた。だが……その重い空気を僅かにひっかきまわすような笑い声が聞こえてきた。
「ならば、あっしがそっちにいこうかねぇ？　聞きたい事が一応あるんでね」
　混沌を好み喜劇を求める少年、骨削瓢である。彼は過去にも密かに色々と企んでいる為、何人かの者が彼に対し警戒を強める。その様子に瓢はあからさまに苦笑した。
「まぁだあっしはなにかしようとしている訳ではないよぃ！　純粋に聞きたいことを聞いてくるだけさね」
「いや、お前の場合何をするかわからないからな」
　心当たりがある亮がつっこむも、瓢はからからと楽しげに笑うだけ。周囲の空気が僅かに張り詰め、ミーツェは不安げにきょろきょろする。だが、そんな彼女の肩を叩き、武道がにっこり笑いかけると、ミーツェの表情から不安が薄れた。
「時間は有限だ。早速行動しようか」
　サキリがそういえば、全員が頷く。
　こうして１５人は占いで示された調査場所か、雷の国へと向かっていった。後に残ったのは静の国の地下書庫を調べる３人と蓮采だけである。
　ふと、蓮采は月が纏っている衣服を見、何かに気づいた。彼は彼女の上から下を見、満足げにうんうん、と頷いた。
「それは、貴方が作ったのですか？　実に素晴らしい……」
「ありがとう。過去にとある方から頂いたサンドシルクで出来た布と資料を使って作ってみたんだ」
　月が腕を広げ、見やすいようにして言えば蓮采は嬉しそうに口元を綻ばせた。
「よく出来ています。丈も程よいですね。貴女ならば仕立て屋として売れっ子になれるでしょう」
　蓮采の言葉に、月は嬉しそうに微笑みを返した。

　雲の国に向かう砂船に乗りながら、瓢はにやり、と内心で笑う。密かに彼は何かを今回も企んでいるようだった。
（この世界の中には、愛憐を哀れむ者たちもいるだろうねぇ。そんな人たちを囲っておきたいよぃ）
　瓢はくすくすと笑いながら雲の国への船旅を楽しむ。だが、その様子をみていた陽太は少し肩を竦める。
「何を企んでいるかはさておき……。こっちは調査に集中かな？」
「なのだ」
　真央がにゃふっ、と頷き、陽太もまた笑顔で頷く。瓢のことはさておき、２人はとりあえず調査に専念しよう、と改めて思ったのだった。

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