せんせいといっしょ：五十嵐先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：五十嵐先生編

　九夜山へと続く道を、五十嵐尚輝先生はゆったりとした足取りで行く。
　その傍らには、それぞれに荷物を抱えた恵御納夏朝と御巫時子の姿。
　２人は、準備や荷物運びを手伝おうと先んじて五十嵐先生との合流を果たしていた。
「２人とも、ありがとうございます。助かりました」
「ふふ、星見が楽しみでそわそわしてしまっていたので、丁度良かったです」
　夜になるのが遠く感じられて、と時子が笑う。
　楽しそうなその様子に、夏朝もそっと口元を緩めた。
　そうして、左手にはめた布製猫パペットのハルくんの口をぱくぱくと動かす。
「僕も楽しみ。流れ星とか、見られたらいいな」
「わ、いいですね、流れ星」
　応じた時子が、声を弾ませた。
　そんな２人のやり取りを、五十嵐先生が微笑ましげに見つめている。

　ふらり、桜花寮を抜け出した倉前七瀬は、夜の町を歩いていた。
　のんびりとしたその足取りは、弾むような軽さも纏っている。
　春休みとはいえ、帰省の予定もなく、
「たまにこうやって、夜の散歩に行きたくなるんですよねぇ」
　という具合で、七瀬は九夜山を目指しているのだった。と、その時。
「おや……あそこにいるのは……？」
　知った顔を見かけて、ふと足を止める七瀬。
「あれは……確か、化学の五十嵐尚輝……先生でしょうか？」
　こんなところでなんしとるでしょう？　と気になり出せば、じっとしてはいられない。
　七瀬は、ひらひらと手を振りながら、五十嵐先生達の元へと歩を進めた。
「こんばんは、先生なんしとーとですか？　あ、僕は２年の倉前七瀬ですー」
「ああ、どうもこんばんは。今日は……」
「あ、もう終了式終わっとるけん、３年生って言ったほうが正しかったでしょうか？」
　自分が零した問いに五十嵐先生が答えようとしたのを、特に悪気なく遮る七瀬。五十嵐先生の方も、
「成る程、定義の難しいところですね。実験をしている時といい、全く、時の流れの早さというのは……」
　という調子なものだから、話は順調に本題から逸れていく。なので。
「ええと、あの。今日はこれから、星を見に行くんです」
　と、マイペースすぎる２人の会話に、時子がそっと梃子を入れた。
　ナイスフォローだとばかりに、夏朝もハルくんと一緒に「うんうん」と頷いている。
　星見と聞いて、七瀬の緑の双眸がぱちぱちと瞬かれた。
「お、先生達も星をみに行かれるとですね。ここであったのも何かの縁ですし……」
　僕も一緒に行ってもいいでしょうか、との七瀬の言葉に、五十嵐先生は頷き応じる。
　勿論ですと言葉が添えられれば、七瀬のかんばせを笑みが彩った。
「一人でのんびりと散歩するのも悪くはなかですが、せっかくなら誰かと一緒にみたほうが楽しいですからね」
　寮を抜け出した甲斐がある、との七瀬の言に、
「ぬ、抜け出してきたんだ……」
　と、しっかり外出の許可を取ってきている夏朝は目を丸くしたのだった。

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